変挺へんてこ)” の例文
旧字:變挺
「たしか昨夜も、今朝もジャガいもばかり喰っていたかな。——道理で胸の具合が変挺へんてこで、酒のき目が奇天烈きてれつになったのかしら?」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
いやしくも東京を出奔しゅっぽんして坑夫にまでなり下がるものが人格を云々うんぬんするのは変挺へんてこな矛盾である。それは自分も承知している。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこに出ておいでなさるお若さんを珍らしそうにながめ、なんだか変挺へんてこの様子で考え、まことに茫然ぼんやりといたして居ります。
しかも、そんな奇妙な仕草をしながら、彼は一体何をしていたのか、どんな犯罪が行われたのか、少しも分らないという、非常に変挺へんてこな事件なのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「妙なことを申しますが、私は、あなたと苗字も名前も同じ女を知っていますよ」と私は変挺へんてこな初対面の婦人に対しては特に時期を失した、口のききかたをした。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「そんな変挺へんてこな店がどこの国にありますかつて!」と女は腹立ちまぎれに、もう一度くり返して叫んだ。「びつくりさせるぢやないの。心臓が破裂したかと思つたわ」
現に将門を滅ぼす祈祷きたうをした叡山えいざん明達めいたつ阿闍梨あじやりの如きも、松尾明神の託宣に、明達は阿倍仲丸の生れがはりであるとあつたといふことが扶桑略記ふさうりやくきに見えてゐるが、これなぞは随分変挺へんてこな御託宣だ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
うんと腹の減った者が、山海の珍味を托されて、生唾を呑みながら運んでいるような——それは譬えようの無い変挺へんてこな心持の旅であったと、当の藤波金三郎が、遥か後になって私へ話して居りました。
初さんが出してくれたものを見ると、三斗俵坊さんだらぼっちのような藁布団わらぶとんひもをつけた変挺へんてこなものだ。自分は初さんの云う通り、これを臀部でんぶしばりつけた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると暗いためによくはわからぬけれど、何かしら普通でない非常に変挺へんてこな感じのものがそこにたたずんでいた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前に述べた意識の連続以外にこんな変挺へんてこなものを建立こんりゅうすると、意識の連続以外になんにもないと申した言質に対して申訳が立ちませんから、残念ながらやめに致して
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正岡氏は、かくも矢つぎばやに提出される数々の手掛てがかりに、むし変挺へんてこな驚きを感じないではいられなかった。これがそもそも予告犯人の所謂いわゆる「完全なる犯罪」なんだろうか。
傲岸ごうがん不屈当代比類なき大政治家ではあったが、流石の大河原伯爵も、こんな変挺へんてこれんな、どんな悪夢の中にも滅多に出て来ない様な、奇怪事に出くわしたのは生れて初めてだった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時、何とも形容出来ない変挺へんてこなことが起った。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、何という変挺へんてこな叱り方であろう。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)