墨壺すみつぼ)” の例文
墨壺すみつぼ刷毛はけを浸し、独特の料理と同じく独特の文字を知っていたので、表の壁に次のような注目すべき文句を即座に書き記した。
『さあいゝか。眼をつぶって。』とんびはしっかり烏をくはへて、墨壺すみつぼの中にざぶんと入れました。からだ一ぱい入れました。
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ただのペンを用い出した余は、印気インキの切れる度毎たびごと墨壺すみつぼのなかへ筆をひたして新たに書き始めるわずらわしさにえなかった。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これをしも一糸乱れなき美と呼ぼうか。そこには完全なる健康がある。真に墨壺すみつぼ範疇はんちゅう的な美の域に達している。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人これに逢えども害をさず、大工の持つ墨壺すみつぼを事のほかほしがれでも、遣れば悪しとて与えずとそまたちは語る。言葉は聞えず、声はひゅうひゅうと高く響く由なりといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日本の墨壺すみつぼと云うのは、磨た墨汁すみ綿わた毛氈もうせん切布きれしたして使うのであるが、私などが原書の写本に用うるのは、ただ墨を磨たまゝ墨壺の中に入れて今日のインキのようにして貯えて置きます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
墨壺すみつぼのような暗さである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青貝の洋筆軸ペンじくを、ぽとりと墨壺すみつぼの底に落す。落したまま容易に上げないと思うと、ついには手を放した。レオパルジは開いたまま、黄な表紙の日記をページの上に載せる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
墨壺すみつぼ。大工用。雑木。高さ二寸九分、長さ六寸五分、巾一寸六分。拭漆ふきうるし。日本民藝美術館蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
四 物を白くするのみなる墨壺すみつぼ