ざかい)” の例文
あっしと源次は、これから土佐ざかいの港へ出て、そこから抜荷屋ぬきやの仲間をたのみ、しばらくどこかの島でほとぼりをさましております。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その女人は、日に向ってひたすら輝く伽藍がらんの廻りを、残りなく歩いた。寺の南ざかいは、み墓山の裾から、東へ出ている長い崎の尽きた所に、大門はあった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
バサバサと葉の茂った街路樹に、生あたたかい風が、ゆるゆると当る、季節ざかいの荒模様の夕暮であった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大方北見ざかいに居る猟師の家を遠くから見たんだろう……なぞと茶化ちゃかしてしまう者も居る……といった塩梅あんばいで、サッパリ要領を得ないままに、噂ばかりがヤタラに高まって行った。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それがしは、戦の後、姫路城の抑えに参った徳川方の者だが、主命をおびて、播州ざかいに木戸を設け往来人をあらためていたところ、此邸ここの——」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀様は、丹波ざかいのこの峠を東に向って、本能寺に殺到したが、わしは西へくだって備中路へ指して行ったのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「城下ざかいを出るまでは、人目につかぬよう、なるたけちりぢりに分れてゆけよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つい去年の関ヶ原のいくさの前までは、この川の十町ばかり上流かみには、小城ながら新免しんめん伊賀守の一族が住んでいたし、もっと奥には、因州ざかい志戸坂しどざかの銀山に、鉱山掘かなやまほりが今もたくさん来ている。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つねに二の丸にいる物頭ものがしら初鹿野はじかの伝右衛門は、余りに烈風なので、持場を一巡して、何気なく本丸ざかいの小高い芝地に立って、耳もちぎれそうな寒風の中に立って、闇一色のあたりを眺めていると
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)