吹下ふきおろ)” の例文
ほのおはなくて、湿った白いけむりばかりが、何とも云えぬ悪臭を放ちながら、高い老樹のこずえあいだに立昇る。老樹の梢には物すごく鳴る木枯が、驚くばかり早く、庭一帯に暗い吹下ふきおろした。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
風はなほよこしまに吹募りて、高きこずゑははきの掃くが如くたわめられ、まばらに散れる星の数はつひ吹下ふきおろされぬべく、層々れるさむさほとんど有らん限の生気を吸尽して、さらぬだに陰森たる夜色はますまくら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
致しける其七日の滿まんずる日の暮方くれがた山の上よりしてさつ吹下ふきおろす風に飄然と眼の前に吹落ふきおとす一枚のふだあり手に取て見るに立春りつしゆん大吉だいきち護摩祈祷ごまきたう守護しゆご可睡齋かすゐさいと記したれば三五郎は心に思ふやう彼の可睡齋かすゐさいと云ば東照宮とうせうぐうより御由緒ゆゐしよある寺にして當國の諸侯しよこうも御歸依寺也因ては可睡齋へ參り委曲くはしき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)