前兆しらせ)” の例文
敬之進はもう心に驚いてしまつて、何かの前兆しらせでは有るまいか——第一、父親の呼ぶといふのが不思議だ、と斯う考へつゞけたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「凶事がある前兆しらせじゃよ、昨夜ゆうべは夢見が悪かった。早速護摩ごまでもかせねばお邸から縊死くびくくりを出してどうするものじゃ。」と令夫人おくさまは大きに担ぐ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちよいと行つて見て下さいよ。何にか恐ろしい事の前兆しらせのやうな氣がしてならないんだが——」
しないこともあるんですよ。今思うと、やはりこんなことがある前兆しらせだったのかも知れませんね
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
へたに身体を動かしたり、へたな口を利いたりしますと、それが悪い前兆しらせになりそうな気が致しますのです。けれどもお電話がかかって来た時、私はほっと安心致しました。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何か悪い事の起る前兆しらせではないか……というこの界隈の者の話をチラと聞いたり致しましたので、イヨイヨ奇怪に存じておりまするところへ一個月ばかり前の事で御座います。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ちょいと行ってみて下さいよ。何か恐ろしい事の前兆しらせのような気がしてならないんだが——」
奈何に二人は世にある多くのためしを思出して、死を告げる前兆しらせ、逢ひに来る面影、または闇を飛ぶといふ人魂ひとだまの迷信なぞに事寄せて、この暗合した事実に胸を騒がせたらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「貧乏神が抜け出す前兆しらせか、恐しくおどされるの、しっかりさっししっかりさっし。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
全く、奥様の為には廻合まわりあわせも好くない年と見えて、何かの前兆しらせのようにいやな夢ばかり御覧なさるのでした。女程心細いものは有ません。それを又た苦になさるのが病人のようでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは山の上に往々たびたびあることで、こういう陽気は雪になる前兆しらせです。昼過となれば、灰色の低い雲が空一面に垂下る、うちの内は薄暗くなる、そのうちにちらちら落ちて参りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)