刺客せきかく)” の例文
友は蔦蘿つたかづらの底に埋れたる一たいの石を指ざして、キケロの墓を見よといへり。是れ無慙むざんなる刺客せきかくの劍の羅馬第一の辯士の舌をもだせしめし處なりき。
サア・オルコツクは、徳川幕府とくがはばくふ末年まつねんに日本に駐剳ちうさつした、イギリスの特命全権公使である。その日本駐剳中には、井伊大老ゐいたいらう桜田門外さくらだもんぐわい刺客せきかくの手にたふれてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一月いちげつ二日に保の友武田準平が刺客せきかくに殺された。準平の家には母と妻とむすめ一人ひとりとがいた。女の壻秀三ひでぞうは東京帝国大学医科大学の別科生になっていて、家にいなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
南洲及び大久保公、木戸公、後藤象次郎、坂本龍馬等公を洛東より迎へて、朝政に任ぜしむ。公既に職に在り、しば/\刺客せきかく狙撃そげきする所となり、危難きなんしきりに至る、而かもがう趨避すうひせず。
「イヤそんな事はありません、御主人のお説が本当なら、殺される人間は皆馬鹿で、刺客せきかくの手にたおれた有名な政治家も、痴情関係で殺される市井しせいの遊蕩児もあまり変らんことになります」
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
人間の心は秘密を蔵してゐるものである。世間には隠蔽せられてゐる事が沢山ある。併しそれにしても其刺客せきかくは誰だらう。誰がこれ程の陰険な事を敢てしただらう。あれだらうか。これだらうか。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
五右衛門を、盗賊として見るべきか、刺客せきかくとして見るべきか、の論。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この年十二月二十一日の塙次郎はなわじろう三番町さんばんちょう刺客せきかくやいばに命をおとした。抽斎は常にこの人と岡本况斎きょうさいとに、国典の事をうことにしていたそうである。次郎は温古堂おんこどうと号した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
六年前、文久元年に江戸で留守居になつてゐた時も、都筑つづき四郎、吉田平之助と一しよに、呉服町の料理屋で酒を飲んでゐるところへ、刺客せきかくが踏み込んで殺さうとしたことがある。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)