刎釣瓶はねつるべ)” の例文
刎釣瓶はねつるべ竿さおに残月のかかった趣なぞは知ろうはずもない。そういう女が口先で「重井筒かさねいづつの上越したすいな意見」とうたった処で何の面白味もないわけだ。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かたわらなる苫屋の背戸に、緑を染めた青菜の畠、結いめぐらした蘆垣あしがきも、船も、岩も、ただなだらかな面平おもたいらに、空に躍った刎釣瓶はねつるべも、もやを放れぬ黒いいとすじ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
原を出ると大根畑があって、その向うに生垣いけがきがあって、そこでギーッと刎釣瓶はねつるべの音がします。米友は、畑の中の道を突切って行って見ると百姓家です。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それと申すが、まず庭口と思う処で、キリキリトーンと、余程その大轆轤おおろくろの、刎釣瓶はねつるべ汲上くみあげますような音がいたす。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣更ころもがえの姿を見よ、と小橋の上でとまるやら、旦那を送り出して引込ひっこんだばかりの奥から、わざわざ駈出すやら、刎釣瓶はねつるべの手を休めるやら、女づれが上も下もひとしく見る目をそばだてたが、車は確に
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刎釣瓶はねつるべの竹も動かず、蚊遣かやりの煙のなびくもなき、夏のさかりの午後四時ごろ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)