出這入ではい)” の例文
このごろ著しく数を増した乗合のりあい自動車やトラック、又は海岸の別荘地に出這入ではいりする高級車の砂ホコリを後から後から浴びせられたり
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白柄組の旗本衆もたびたび出這入ではいりする。しかしどの人もうわべのあらっぽいには似合わないで、底には優しい涙をもっている。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして私達はいつもおおぜい人のいる店の方へはめったに行かないで、狭い路地にひらかれている、裏の小さなくぐり戸から出這入ではいりしていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
たとえば、ぱん、ぱん、誰かがまきを割っている音にしても、出這入ではいりの人のあしいろにも、いそがしさがうかがわれる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄なども母の晩年には、出這入ではいりの度に、廊下づたいに部屋の傍まで来て声を懸けますので、母はどんなにそれを喜んでおりましたか。年寄の気持は、皆同じことでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それから、自分の寝室へは、だれも近づいて来られないように、ぐるりへ大きなみぞを掘りめぐらし、それへ吊橋つりばしをかけて、それを自分の手で上げたりおろしたりしてその部屋へ出這入ではいりしました。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
長幼の順序を守らないで、姉達より先に物を食べたり、出這入ではいりをしたり、上座に就いたりすることは始終なので、来客のある時、外出した時など、幸子はハラハラさせられることが多かった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いろいろの買いがかりの勘定などをして歩くのもあった。それらの出這入ではいりで京の町は又ひとしきり混雑した。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
姉の方へばかり絶えずいまひと方が出這入ではいりなすっていられるのを、胸のしめつけられるような気もちで見て暮していたところ、五月になると、そのお方さえも
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
なぜなら、自分は自分ひとりで、この木賃に泊っているつもりでいたが、自分の出這入ではいりや行動には、絶えず、蜂須賀党の仲間の眼が、どこかで見張っているからだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなに手軽には雇われますが、とかく出這入ではいりの多いのには困りました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
老主人夫婦も若主人夫婦も正直な好人物で、親切に出這入ではいりの世話をしてくれましたが……。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洞窟は、立って自由に出這入ではいりでき、ふところも広く、奥行は数十歩にして尽きるが、岸々がんがんたる大岩の袖で囲まれており、なるほど、瞑想するには、ふさわしい場所である。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お春の借りは勝負の上の借りですから、表立ってどうこうと言うわけにはいかない性質のものですが、そのかたを付けて置かないとお春の家へ出這入ではいりが仕にくいことになります。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)