兇刃きょうじん)” の例文
それをとするかとするか、自分のくちびるをでる、ただ一で、どんな兇刃きょうじんがもののはずみで御岳みたけ神前しんぜんの海としないかぎりもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、この、「長い黒の外套がいとう」を着て闇黒あんこくむ妖怪は、心願しんがんのようにその兇刃きょうじんを街路の売春婦にのみ限定してふるったのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
利七とお種に直接の兇刃きょうじんを加えた者は、あらかじめ暗闇に潜んで待っていた二人の共犯者であって、壁の像が消えるのを待構え
何者が何の為にコロップの栓の裏にかゝる切創を附けたるにや、其創はもっとも鋭き刃物にて刺したる者にて老人ののんどを刺せし兇刃きょうじんかゝ業物わざものなりしならん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
蠅男の兇刃きょうじんたおれた鴨下ドクトル、それから富豪玉屋総一郎、最近に元検事正塩田律之進——この三人は、何か蠅男から共通の殺害理由をもちあわしていたに違いないということだ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この無惨な土牢の中で鬼王丸の指図の下に兇刃きょうじん犠牲ぎせいになったのであろうか? 真実彼は殺されたのであろうか? それとも何者かに助け出されたのであろうか……それはどっちとも解らない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ややもすれば退嬰たいえい保身に傾かんとする老齢の身を以て、危険を覚悟しつつその所信を守りたる之等の人々が、不幸兇刃きょうじんに仆るとの報を聞けるとき、私はい難き深刻の感情の胸中に渦巻けるを感じた。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
この男が馬乗りになって、女の咽喉のどを一きするのになりよりもつごうのいい、まるで兇刃きょうじんを招待するような姿態である。下部の切開がそれにつづいた。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
家人を縄目や猿ぐつわにかけたりするような、手間どることもせず、目的を迅速に達するためには、無用な兇刃きょうじんを用うることも、意としなかった手口がわかる。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮川は、彼が捨てた八形八重のため、二度も兇刃きょうじんをうけたのだった。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)