乾枯ひから)” の例文
そしてその附近一帯に、もう乾枯ひからびて固くなりかかった赤黒い液体の飛沫しぶきが、点々と目につきだした。女中が黄色い声をはりあげた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
恐らく、それと共に、今日の僕の記憶力も、臨終の床に夢を見る老耄おいぼれどもの乾枯ひからびた脳髄と同じくらいに衰耗しているのに違いない。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
あの乾枯ひからびたシャモのくびのような咽喉のどからドウしてアンナ艶ッぽい声が出るか、声ばかり聞いてると身体からだけるようだが、顔を見るとウンザリする
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
須彌壇すみだんの花立てには、何時けたとも知れぬ花の枝が乾枯ひからびて、焚き付けにでもなりさうになつてゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
総一郎は封筒をさかさにふってみた。すると娘の云ったとおり、机の上にポトンと蠅の死骸が一匹、落ちてきた。それはぺちゃんこになった乾枯ひからびた家蠅の死骸だった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
這うようになおも辺りを見れば、飯粒の乾枯ひからびたの、鰹節の破片かけらなどが、染甕の内外に、些少すこしだが散らばっている。釘抜藤吉、突然上を向いて狂人のように笑い出した。と
乾枯ひからびた薔薇ばらなどを口實いひわけほどに取散とりちらして貧羸みすぼらしうかざった店附みせつき
半分乾枯ひからびかかった茶褐色の泡の羅列が、船縁ふなべりから平均一フィートほどの下の処に、船縁に沿って、一様に船をぐるっと取り巻くようにして長い線を形造っているだけだ。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
言語學といふ乾枯ひからびたやうな學問の教ふるところは別として、たとへば日本語の柄杓ひしやくといふ言葉を聞くと、それが如何にもあの液體を掬ふ長い柄の附いた器物のやうに思はれるし
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
先輩は「過去」という亡霊が今なお生きていると錯覚して、後輩を失敬にもこの乾枯ひからびた枠の中に入れて眺め、さて、自信がないものだから、おしまいには決まってお世辞を言う。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
余り評判にもならなかったが、那翁三世が幕府の遣使栗本に兵力を貸そうと提議した顛末を夢物語風ゆめものがたりふうに書いたもので、文章は乾枯ひからびていたが月並な翻訳伝記の『経世偉勲』よりも面白く読まれた。