丑寅うしとら)” の例文
八州屋孫右衛門は雨に濡れた衣服のまま頭部をめちゃめちゃに叩き毀されて、丑寅うしとらを枕に、味噌蔵の入口に倒れていた。
それが明神様のお告げでは丑寅うしとらの方の山手にいると云う訳なので、一間置きぐらいに人が立って、八方から山を囲んで登って行こうとしていました。
紀伊国狐憑漆掻語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しんしんと更ける丑寅うしとらの刻、——いまでいうと午前三時半という頃おいであろうか、一学が眼をさましたときは、屋敷の中は乱闘のまっ最中であった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
「俺の方が餘つ程あきれるよ。そんなに向島が眺めたかつたら、縁側えんがはに昇つて背伸して見ろ、はりに顎を引つかけると、丑寅うしとらの方にポーツと櫻が見える——」
「ナニ、大したことはござんせんがね、これが丑寅うしとらに変らなけりゃあ大丈夫ですよ。そんなことはありゃしませんよ。それでもこの分じゃ、ちっとばかり荒れますよ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時には九十六けんからある長い橋の上に立って、木造の欄干にりかかりながら丑寅うしとらの方角に青く光る遠い山を望んだ。どんな暑苦しい日でも、そこまで行くと風がある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其時一神の君大に悦び、いかに小摩、汝がりう早く聞(開?)かせん。是より丑寅うしとらの方にあたつて、とふ坂山といへるあり。七つの谷の落合おちあいに、りう三つを得さすべし。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見る物がなくなって、空を見ると、黒雲と白雲と一面に丑寅うしとらの方へずんずんと動いて行く。次第に黒雲が少くなって白雲がふえて往く。少しは青い空の見えて来るのも嬉しかった。
飯待つ間 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
流れをさかのぼって、方角はとらの境あたりに取った。その先にある某地点、この谷川の水が丑寅うしとらの方向に転ずるところ、そこが第二の屯営とんえいであろう。ひそかに大野順平は自分の胸にそう期していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
丑寅うしとらの強風が滝のような雨とともに火花を散らして吹きつけてきた。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「俺の方がよっぽど呆れるよ。そんなに向島が眺めたかったら、縁側に昇って背伸せのびして見ろ、はりに顎を引っかけると、丑寅うしとらの方にポーッと桜が見える——」
真黒な三つの塊りが川の字形に跡を踏んで丑寅うしとらの角へ動いて行ったのは、あれで、かれこれ九つに近かった。
餞別せんべつというほどでもねえが、裏街道を通って萩原入はぎわらいりから大菩薩峠を越す時に、峠の上の妙見堂から丑寅うしとらの方に大きな栗の木があるから、そのうつろの下を五寸ばかり掘ってみてくれ
それにしても、江戸両国の橋の上から丑寅うしとらの方角に遠く望んだ人たちの動きが、わずか一月ひとつき近くの間に伊那の谷まで進んで来ようとは半蔵の身にしても思いがけないことであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此方こちらには——(戌亥いぬいに五歩、丑寅うしとらに七歩、石猿を叩いて道自ら開くべし)——とある」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「風が変った、丑寅うしとら戌亥いぬいに変ったぞ、気をつけろやーい」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ここから丑寅うしとらの方に立派に生きております」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうすると早くも認めた丑寅うしとらの方一隅に向って
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)