下足札げそくふだ)” の例文
Hと云ふ若い亜米利加アメリカ人が自分の家へ遊びに来て、いきなりポケツトから下足札げそくふだを一枚出すと、「なんだかわかるか」と自分に問ひかけた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
入口で木戸番がにっこりして、手磨てずれた大きな下足札げそくふだを渡しました。毎朝車で通る人とは知るまいと、兄はいつもいわれますけれど、どうでしょうか知ら。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
高座に渇仰の的が姿を現わすと、神妙に静まりかえって、邪魔にならぬほどのよいおりを見て、語り物の乗りにあわせて、下足札げそくふだで拍子をとり、ドウスル、ドウスルと連発する。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
下足札げそくふだを出して、百畳敷一ぱいの人である。正面には御簾みすを捲いて、鏡が飾ってある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
下足札げそくふだそろへてがらんがらんのおともいそがしや夕暮ゆふぐれより羽織はおりひきかけて立出たちいづれば、うしろに切火きりびうちかくる女房にようぼうかほもこれが見納みおさめか十にんぎりの側杖そばづえ無理情死むりしんぢうのしそこね、うらみはかゝるのはてあやふく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「だから、その晩の下足札げそくふだを一枚貰つて来たんだ。これだつてあの芸者の記念品スヴニイルにや違ひない。」
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
右の出入口は広い板敷で、上には大きなランプが幾つか吊してあり、若い男が角の大きな下足札げそくふだに長いひもを附けたのを二、三十本も右の手に持って、頻りに板敷をたたきます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
人力車をかついでゆくようにする、贔屓ひいきの書生たちが、席へ陣取ると、前にいっている仲間と一緒になって、下足札げそくふだで煙草盆をたたいて、三味線にあわせて調子をとり、綾之助なら綾之助が
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)