上辷うわすべ)” の例文
或は苦労が上辷うわすべりをして心にみないように、何時迄いつまで稚気おさなぎの失せぬお坊さんだちの人もあるが、大抵は皆私のように苦労にげて、年よりは老込んで、意久地いくじなく所帯染しょたいじみて了い
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして或る時には、からす真似まねをするように、罪人らしく自分の罪を上辷うわすべりに人と神との前に披露ひろうもした。私は私らしく神を求めた。どれ程完全な罪人の形に於て私はそれをなしたろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
深刻なようで上辷うわすべりがし、上辷りがしているようで存外深刻でもあり、ちょっと、迷わされるがね、早い話が、結局こういうことになるんじゃねえか、どうも、そうなりそうだよ、つまり
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上辷うわすべりのする赭色の岩屑を押し出した岩の狭間をい上って崖端に出ると、偃松の執念しつこからみついた破片岩の急傾斜がいらかの如く波を打って、真黒な岩の大棟をささえている。絶巓ぜってんはすぐ其処そこだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
池内は酒を飲んで、雄弁に彼の劇通げきつう披瀝ひれきした。彼の議論は誠に雄弁であり、気が利いてもいたが、併し、それはやっぱり、彼の哲学論と同じに、少しばかり上辷うわすべりであることをまぬかれなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)