丁重ていちょう)” の例文
「なに、りん師範だって。そいつあ、えらいもンに見物されたな。ごあいさつせずばなるまい。おい、誰か行って、丁重ていちょうにお呼びしてこい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
X大使と名乗る怪異な人物は、すこぶる丁重ていちょうな挨拶をした。私は、自尊心を傷つけられること、これより甚だしきはなかった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからまた、一行の神楽師に対する豪傑連中のもてなしが、甚だ丁重ていちょうで、いわゆる芸人風情にするものとは行き方がちがっていることを、不思議にも思いました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうしてこの事実が、はからざるやまいのために、周囲の人の丁重ていちょうな保護を受けて、健康な時に比べると、一歩浮世の風のあたにくい安全な地に移って来たように感じた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅行者の発見するものは、心臓的な歓迎と、微笑と、丁重ていちょうだけだ。だから、白人の旅行者は、いっそう気をつけて、黒い神経にさわるような言動はいっさいつつしんでもらいたい。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この祭というのは三十年以上もたってやっと一度めぐり合わすというもので、従って大へん丁重ていちょうにすべきもので、正月中に祖先の像を祭るのであった。お供えものもすこぶる多いし、祭器も頗る吟味する。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
右門と山尾は新来の武士にいとも丁重ていちょうに挨拶をした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、いう丁重ていちょうに訪れて来られた方がございました。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
院長ドクター・ヒルは、五十を過ぎた学者らしい人物だったが、はなは丁重ていちょうに、仏天青を扱った。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして連絡に来た者は、松山の場合には、長屋のお内儀かみさんふうの女であったそうだし、杉田の場合は、目の光の鋭い、そしていやに丁重ていちょうな口のきき方をする商人体の者だったという。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おい、ネラ。ドクター・ヒルの紹介の方だから、さっきいったように、丁重ていちょうにナ」
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わからないな。ともあれ約束の時間が来る。運転手! お前はこいつを連れて事務所へかえれ。わしと根賀地とは公園を出たところでタキシを呼ぶから……。お客様は丁重ていちょうに扱うんだぞ」
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わたくしが佐和山佐渡子さわやまさとこでございます」と丸い肩を丁重ていちょうに落して挨拶した。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「飛んだ御迷惑をかけまして」と大江山警部の口調は丁重ていちょうきわめていた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ああ、あけてくれ。丁重ていちょうあつかえよ」
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)