一行いちぎょう)” の例文
その他、わが朝の先徳にも、空也くうや、源信、良忍、永観などみな、習いみがきたる智恵もぎょうもすてて皆、念仏の一行いちぎょうに、いて生れたる人々ではござらぬか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詩は花やかな対句ついくの中に、絶えず嗟嘆さたんの意が洩らしてある。恋をしている青年でもなければ、こう云う詩はたとい一行いちぎょうでも、書く事が出来ないに違いない。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まったく一行いちぎょうの詩も書けなくなり、反駁はんばくしたいにも、どうにも、その罵言ばげんは何の手加減も容赦ようしゃも無く、私が小学校を卒業したばかりで何の学識も無いこと
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この手紙の内容は御退院を祝すというだけなんだから一行いちぎょうで用が足りている。従って夏目文学博士殿と宛名を書く方が本文よりも少し手数てすうが掛った訳である。
唐の玄宗げんそう皇帝の代に、一行いちぎょうという高僧があって、深く皇帝の信任を得ていた。
かなしい活気を呈していた、とさいしょの書き出しの一行いちぎょうに書きしるすというような事になるのではあるまいか、と思って東京に舞い戻って来たのに、私の眼には
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
のみならず偶然目についた箇所は余人は知らずわたし自身には見逃しのならぬ一行いちぎょうだった。——
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よし新羅しらぎ百済くだらの海の果てへ流さるるも、死を賜うも、大聖釈尊だいしょうしゃくそんをはじめ無量諸菩薩しょぼさつが、われら凡愚煩悩ぼんのう大衆生だいしゅじょうのために、光と、あかしとを、ここにぞと立て置かれたもうた念仏の一行いちぎょうであるものを。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足は昨夕ゆうべから歩き続けで草臥くたびれてはいるが、あるけばまだ歩ける。そこで注意の通り、なるべく気をつけて、長蔵さんと赤毛布のあとけて行った。みちがあまり広くないので四人よつたり一行いちぎょうに並べない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄さんに合せる顔も無く、そのまま部屋にとじこもって日の暮れるまで、キエルケゴールの「基督キリスト教に於ける訓練」を、読みちらした。一行いちぎょうも理解できなかった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
三度目に広子の思い出したのは妹の手紙の一行いちぎょうだった。その手紙は不相変あいかわらず白い紙を細かいペンの字にうずめていた。しかし篤介との関係になると、ほとんど何ごとも書いてなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あまり、しつこくすすめられると、私は大声で泣いてやりました。学校の綴方のお時間にも、私は、一字も一行いちぎょうも書かず綴方のお帳面に、まるだの三角だの、あねさまの顔だのを書いていました。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は全部を、そのままに信じることにしよう。この不思議な報告の中で、殊に重要な点は、その最後の一行いちぎょうに在る。彼女が猟夫を見ると必ず逃げ出した、という事実に就いて私は、いま考えてみたい。
女人訓戒 (新字新仮名) / 太宰治(著)