一味いちみ)” の例文
口では勝彦を咎めるやうなことを云ひながら、心の中では此の勇敢な救ひ主に、一味いちみ温かい感謝の心を持たずにはゐられなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
さうしてそれと同時に霜げた赤鼻と数へる程の口髭とが何となく一味いちみの慰安を自分の心に伝へてくれるやうに思はれた。……
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其方儀そのはうぎ天一坊へ一味いちみ致し謀計ぼうけい虚言きよげんを以て百姓町人をあざむき金銀を掠取り衣食住に侈奢おごり身の程をもわきまへず上をないがしろに致たる段重々不屆に付死罪申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
町まで使いにいって、ちょうど山塞の近くへもどってきた一味いちみの一人が、ふと目をあげたとき、妙なものを見つけた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほとんど無数の民衆が夏の一日の汗を行水ぎょうずいに洗い流した後、ゆう飯のぜんの上にならべられた冷奴の白い肌に一味いちみの清涼を感じたであろうことを思う時
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大チャンはちょうどその二三日前から、巨匠の演出する山賊の一味いちみになり、帰宅はいつも十二時をまわっていた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
いづれもただ美しなまめかしといはんよりはあたかも入相いりあいの鐘に賤心しずこころなく散る花を見る如き一味いちみの淡き哀愁を感ずべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
軽慓けいひょう狠険こんけん篤信とくしん小吏しょうり大塩平八が、天保八年の饑饉に乗じ、名を湯武とうぶ放伐ほうばつり、その一味いちみひきい、火を放ちて大坂城を乗り取らんとしたるが如きは
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一味いちみの海のひたりも
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
和楽わらくする一味いちみの人。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
口では勝彦をとがめるようなことを云いながら、心の中ではの勇敢な救い主に、一味いちみ温かい感謝の心を持たずにはいられなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして、きょう一日の活動に取りかかろうとする時、かの朝顔売りや草花売りが早くも車いっぱいの花を運んで来る。花も葉もまだ朝の露が乾かない。それを見て一味いちみの涼を感じないであろうか。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)