一劃いっかく)” の例文
ミンチン女塾のある一劃いっかくには、五つか六つの家族が住んでいました。セエラはそれぞれの家族と、彼女の空想の中で親しくなっていました。
しかし奥の限られた一劃いっかくだけには、ただならぬ気が充ちていた。二、三の部屋にも人の起きているらしい様子があった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聖アグネス病院といふのは、ご存じないかも知れませんが、築地つきじ河岸かしちかく三方を掘割にかこまれてゐる一劃いっかくに、ひつそり立つてゐるあまり大きくない病院です。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
一つにはこの庭と茶室の一劃いっかくは、蔵住いと奥倉庫の間の架け渡しを、温室仕立てにしてあるもので、水気の多い温気が、身体をもたげるようにこもって来るからでもあろう。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
独身者のお小屋はべつになっていて、表門に近く、小者長屋と生垣を隔てた一劃いっかくにあった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
話によるとこの竹の苗は奈良朝の初期にからの国から移植されたものらしいんだが、三百年足らずの間にどうだ、この東の国の一劃いっかくにも、このように幽麗な叢林そうりんを形成してしまったのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
暗い小庭と不潔な露地ろじが網の目のように入りこんでいる陰惨な一劃いっかくである。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
コークス工場も何時の間にか無くなり、その外国人も何処に行ったやら消えてしまったが、ここに残った一劃いっかくの部落は、その後町の発展の圏外けんがいにありながら、一つの任務を帯びるようになった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そのためにこの一劃いっかくの貧しい住民はおたがいに踏み殺し合うような騒ぎを捲き起して、泣きわめきながら一物も持たずに河原や町の中へあふれ出した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初冬に入って間もないあたたかい日で、照るともなく照る底明るい光線のためかも知れない、この一劃いっかくだけ都会の麻痺まひが除かれていて、しかもそのえ方は生々しくはなかった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
軍の行動をさまたげない範囲に一劃いっかくを区ぎって、市を許可してあるらしい。そこに見られる掛小屋だの露店ほしみせの数は社寺の賽日さいにちを思わせるほど雑鬧ざっとうしている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)