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やなぎや
あゝ、まぼろしのなつかしい、
空蝉のかやうな
風土は、
却つてうつくしいものを
産するのか、
柳屋に
艶麗な
姿が
見える。
長旅は
抱へたり、
前に
峠を
望んだれば、
夜を
籠めてなど
思ひも
寄らず、
柳屋といふに
宿を
取る。
柳屋は
淺間な
住居、
上框を
背後にして、
見通の
四疊半の
片端に、
隣家で
帳合をする
番頭と
同一あたりの、
柱に
凭れ、
袖をば
胸のあたりで
引き
合はせて、
浴衣の
袂を
折返して