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こえき
……外套の袖を振切って、いか
凧が切れたように、穂坂は、すとんと
深更の停車場に下りた。急行列車が、その黒姫山の
麓の
古駅について、まさに発車しようとした時である。
むかし唐の
欧陽詢が馬に乗つて、ある
古駅を通りかゝると、崩れかゝつた
道つ
端に、苔のへばりついた
旧い石碑が立つてゐるのが目についた。碑の文字は
瞥見にも棄て難い味はひがあつた。
孤驛既に
夜にして、
里程孰れよりするも
峠を
隔てて七
里に
餘る。……
彼は
其の
道中の
錦葉を
思つた、
霧の
深さを
思つた、
霜の
鋭さを
思つた、
寧ろ
其よりも
早や
雪を
思つた、……
外套黒く
沈んで
行く。