“誰(た)” の例文
誰(た)れか這入(はいっ)て来る、電報がかかる、訪問客が来る、折角(せっかく)考えていたことを中途で妨げられて、またヤリ直すことが幾度(いくど)あるか知れぬ。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
われわれの生活は遠からず西洋のように、殊に亜米利加(アメリカ)の都会のように変化するものたる事は誰(た)が眼にも直ちに想像される事である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昨夜(ゆうべ)は夜(よ)もすがら靜(しづか)に眠(ねぶ)りて、今朝(けさ)は誰(た)れより一(いち)はな懸(が)けに目(め)を覺(さま)し、顏(かほ)を洗(あら)ひ髮(かみ)を撫(な)でつけて着物(きもの)もみづから氣(き)に入(い)りしを取出(とりいだ)し
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なに、おやすいことじゃと。ムム、そちの脚くびを、餌にやるくらいなつもりなら難しくもあるまい。誰(た)ぞ、犬奉行をこれへ呼べ」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先に立ちたるは、かち色の髪(かみ)のそそけたるを厭(いと)はず、幅広き襟飾(えりかざり)斜(ななめ)に結びたるさま、誰(た)が目にも、ところの美術諸生(しょせい)と見ゆるなるべし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
面附(つらつき)こそは誰(た)れよりも見(み)よけれ、脛附(すねつき)が十人並(にんなみ)以上(いじゃう)ぢゃ、それから手(て)や足(あし)や胴(どう)やは彼(か)れ此(こ)れ言(い)ふが程(ほど)も無(な)いが、外(ほか)には、ま、類(るゐ)が無(な)い。
「吹奏(なさり)まし、吹奏まし。何の貴女、誰(た)、誰が咎めるもので。こんな時。……不忍(しのばず)の池あたりでお聞き遊ばすばかりでございます。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕は先に立ちて暗き梯(はしご)を登りゆくに、我は詞もあらでその後に隨ひぬ。僕は戸外の鈴索(れいさく)を牽(ひ)いたり。内より誰(た)ぞやといふは女の聲なり。
一々は申上げられませんが、その一つ二つを拾つて申しますと、私の亡くなつた女房は、吉原の中所の店の新造で、誰(た)が袖(そで)と申しました。
母親も、「誰(た)れか一人大人を附けてやりましょう」と言ったが、大人は昼の仕事に労(つ)かれているので、夜頼むわけにはゆかない。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「夜深うして方(まさ)に独り臥(ふ)したり、誰(た)が為(た)めにか塵(ちり)の牀(とこ)を払はん」「形羸(つか)れて朝餐(てうさん)の減ずるを覚ゆ、睡り少うして偏(ひと)へに夜漏(やろう)の長きを知る」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
誰(た)そ此の一三五末句(すゑく)をまうせとのたまふに、山田三十郎座をすすみて、某(それがし)つかうまつらんとて、しばしうちかたぶきてかくなん。
かしこにては誰(た)が願ひも備はり、熟し、圓(まどか)なり、かの球においてのみこれが各部はその常にありしところにとゞまる 六四—六六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
縫いの振袖に、だらりに結びさげた金襴(きんらん)の帯、三条四条の大橋を通る舞妓姿は、誰(た)が家(や)の姫君かと見とれさせるばかりだった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
二人共、この春徴兵検査を受けたのだが、五尺不足(たらず)の山内は誰(た)が目にも十七八にしか見えない。それでゐて何処か挙動(ものごし)が老人染みてもゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
譬(たと)えて見れば、誰(た)れかお前の処(ところ)へ来て云うのだな。あなたは千九百七十年五月一日(じつ)にお亡くなりなさいますよというのだな。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「環境(わたり)」と「誰(た)」を感じた。突き上げて来た物恋うこころ。自らによって他を焼き度く希う情熱をはじめて自分は感じた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
路(みち)に迷いて御堂(みどう)にしばし憩(いこ)わんと入れば、銀に鏤(ちり)ばむ祭壇の前に、空色の衣(きぬ)を肩より流して、黄金(こがね)の髪に雲を起せるは誰(た)ぞ
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今ちょいと外面(おもて)へ汝(てめえ)が立って出て行った背影(うしろかげ)をふと見りゃあ、暴(あば)れた生活(くらし)をしているたア誰(た)が眼にも見えてた繻子(しゅす)の帯
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
寝床(しんしやう)われを呑み、睡眠われを無何有郷(むかうきやう)に抱き去らんとす。然れ雖(ども)われは生命(いのち)ある霊景と相契和しつゝあるなり。枕頭の燈火、誰(た)が為に広室(ひろま)を守るぞ。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
𢌞廊のあなたに、蘭燈(らんとう)尚ほ微(かすか)なるは誰(た)が部屋(へや)ならん、主は此(こ)の夜(よ)深(ふか)きにまだ寢もやらで、獨り黒塗の小机に打ちもたれ、首(かうべ)を俯して物思はしげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
前(まへ)にもいへるごとくちゞみは手間賃(てまちん)を論(ろん)ぜざるものゆゑ、誰(た)がおりたるちゞみは初市に何程(なにほど)に売(うり)たり、よほど手があがりたりなどいはるゝを誉(ほまれ)とし
そして村人の被る狸の仮面(めん)を「智慧蔵仮面(めん)」と申します。しかし村人の誰(た)れもその由来を知つたものはありません。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
出平が船荷証券で持木屋から五千両借り、馬に積んで北の庄村の家へ届けたとき、入れ替わりに八百助の家から誰(た)が袖のお杉さんが、とび出して来た。
核(たね)までがり/\噛(かぢ)つちやつたな、奇態(きたい)だよそんだが桃(もゝ)噛(かぢ)つてつと鼻(はな)ん中(なか)さ埃(ほこり)へえんねえかんな、俺(お)れが齒(は)ぢや誰(た)れでも魂消(たまげ)んだから眞鍮(しんちう)の煙管(きせる)なんざ
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二人とも、おやさいの中で一番頭の毛が青く立派に生へてゐるので、誰(た)れでも、大根さんの家(うち)が髪床やさんをしてゐるのを笑ふものはありませんでした。
髪床やの大根さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
橋の袂(たもと)に眠りし犬頭(くび)をあげてその後影を見たれど吠(ほ)えず。あわれこの人墓よりや脱け出(い)でし。誰(たれ)に遇い誰(た)れと語らんとてかくはさまよう。彼は紀州なり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
俺(おれ)だつて、誰(た)れにも逢(あ)はふとは思(おも)はない、只(たゞ)あの石狩原野(いしかりげんや)だの、高原(たかはら)の落日(おちひ)、白樺(しろかば)の林(はやし)なにを考(かんが)へてもいゝなあ——それに五月(ぐわつ)頃(ころ)になるとあの白樺(しろかば)の根(ね)に
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
「誰(た)そ我が國に來て、忍(しの)び忍びかく物言ふ。然らば力競べせむ。かれ我(あれ)まづその御手を取らむ一二」といひき。
このあたりで名物という大津(おおつ)の牛が柴車(しばぐるま)を牽(ひ)いて、今や大橋を渡って来る。その柴の上には、誰(た)が風流ぞ、むらさきの露のしたたる菖蒲の花が挟んである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
癩病(らいびょう)病院に血痕のある木! 誰(た)れしもあまり佳(よ)い心持(こころもち)がしない、こんな場所だから昼間でも人通りが頗(すこぶ)る少ない、殊(こと)に夜に入(い)っては、甚(はなは)だ寂しい道であった。
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
彼この時において、寡婦孤児を輔(たす)け、以て内外の大難を靖(やす)んず、千載の下、誰(た)れか彼の精誠を諒するものぞ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
陪審官(ばいしんくわん)は殘(のこ)らずその石盤(せきばん)に、『娘(むすめ)はそれに些(ちつ)とも意味(いみ)があるとは信(しん)じない』と書(か)きつけました、併(しか)し誰(た)れ一人(ひとり)として其(そ)の文書(もんじよ)を説明(せつめい)しやうとはしませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、此(この)噂(うはさ)は早(はや)くも軍艦(ぐんかん)「日(ひ)の出(で)」の全體(ぜんたい)に傳(つたは)つたが、誰(た)れも其(その)本分(ほんぶん)を忘(わす)れて「どれ、どんな男(をとこ)だ」などゝ、我等(われら)の側(そば)に飛(と)んで來(く)る樣(やう)な不規律(ふきりつ)な事(こと)は少(すこ)しも無(な)く。
翠(みどり)の帳(とばり)、きらめく星 白妙(しらたへ)の牀(ゆか)、かがやく雪 宏(おほい)なる哉(かな)、美くしの自然 誰(た)が為め神は、備へましけむ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
誰(た)れ一人として、この水を覗くものもなければ、雲は、その水溜りに映って音なく影は去来(ゆきき)するにまかせている。背に負った乳飲児は、火のつくように泣き立てた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
黄金丸は柴門(しばのと)に立寄りて、丁々(ほとほと)と訪(おとな)へば。中より「誰(た)ぞ」ト声して、朱目(あかめ)自ら立出づるに。見れば耳長く毛は真白(ましろ)に、眼(まなこ)紅(くれない)に光ありて、一目(みるから)尋常(よのつね)の兎とも覚えぬに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
私は嬉(うれ)しくてたまらないので、上京の時持って行って、誰(た)れ彼(か)れに見せて廻(まわ)って、大得意であった。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
或時(あるとき)はデレリ茫然(ばうぜん)としてお芋(いも)の煮(に)えたも御存(ごぞん)じなきお目出(めで)たき者は当世(たうせう)の文学者(ぶんがくしや)を置(お)いて誰(た)ぞや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
女鳥(めとり)の わがおおきみの織(おろ)す機。誰(た)が為(た)ねろかも——、御存じ及びでおざりましょうのう。昔、こう、機殿の牕(まど)からのぞきこうで、問われたお方様がおざりましたっけ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
春(はる)まけて物(もの)がなしきにさ夜(よ)更(ふ)けて羽(は)ぶき鳴(な)く鴫(しぎ)誰(た)が田(た)にか住(す)む 〔巻十九・四一四一〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
其の中(うち)に悪縁とは申しながら、新吉とお賤と深い中に成りましたのは、誰(た)れ有って知る者はございませんけれども、自然と様子がおかしいので村の者も勘付いて来ました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
焦茶地の縞羅紗(しまらしや)の二重外套(にじゆうまわし)は何(いつ)の冬誰(た)が不用をや譲られけん、尋常(なみなみ)よりは寸の薄(つま)りたるを、身材(みのたけ)の人より豊なるに絡(まと)ひたれば、例の袴は風にや吹断(ふきちぎ)れんと危(あやふ)くも閃(ひらめ)きつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
頭上に輝く名利の冠(かんむり)を、上らば必ず得(う)べき立身の梯子(はしご)に足踏みかけて、すでに一段二段を上り行きけるその時、突然蹴(け)落とされしは千々岩が今の身の上なり。誰(た)が蹴落とせし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その笑ひ顔の厭味たつぷりな事と言つたら、誰(た)が目(め)にも腹を立てずに居(を)られなかつた位だ。
これが誰(た)れでも知つて居るガリヴア巡島記で、スヰフトが書いて居るラガトオの大学の記事である。が、これにも増して容易にまた簡単に出来るのものは今日の吾が翻訳である。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
「山下の駒止札(こまどめふだ)のところに立っていて、誰(た)れも山内へ入れないようにしてあげます」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
然(しか)り而(しこう)して日本国中その責(せめ)に任ずる者は誰(た)ぞや、内行(ないこう)を慎まざる軽薄男子あるのみ。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
昼から夜になろうとする誰(た)そや彼、たそがれの頃を、俗に逢魔(おうま)が刻といって、物の怪(け)が立つ、通り魔が走るなどといいなしているが、それよりもいっそう不気味な時刻は、むしろこの
いつしかしっとりと秋の宵が迫って、行く手は彼(か)は誰(た)れ時の夕闇でしたが、しかしその宵闇の中にたばしる剣光を縫いながら、必死とあの宿の若者の力戦奮闘している姿が見えました。