こま)” の例文
『申し難いが、こまかいをすこし、お持ち合せはないか。実はかくの通り、単衣ひとえまで質に入れてしまったので、金策に出られぬ始末』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめは、ほそえだが、二ほんしかなかったのが、たちまちのうちに、三ぼんになり、四ほんとなり、こまかながたくさんついたのであります。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また嘴を粟の真中に落す。また微な音がする。その音が面白い。静かに聴いていると、丸くてこまやかで、しかも非常にすみやかである。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は煙草をふかしながら、二枚の地図を継ぎ合わせて、こまかに、行手の道を見た。この次に通る土沢つちさわを通り越すと、道が川に沿っている。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
そこでかけあいについてのこまかい注意を受けて、母の用意してくれた食糧を背負って、はるばるサルフトの村へ出かけて行った。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
幕開まくあきうたと三味線が聞え引かれた幕が次第にこまかく早める拍子木のりつにつれて片寄せられて行く。大向おおむこうから早くも役者の名をよぶ掛け声。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長いの衣をつけ、頭に花笠のような笠をかぶって、両の手に短剣を持ち、腰はしなやかに、両脚をこまやかになよなよと踊りだすのである。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
と云って、夏冬のしたくを作ったり、こまごました道具を買いととのえたりし、出立のときには自分で髪を結ってやったりした。
日本婦道記:墨丸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きまったように、そのあとを、ちょきちょきとこまかにまないたを刻む音。時雨しぐれの頃からお冴えて、ひとり寝の燈火ともしびを消した枕にかよう。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の聞かせしやうにこまやかなる声はあらねど、たゞものゝ哀れにて、げに恋する人の我れに聞かすなと言ひけんも道理ことわりぞかし。
すゞろごと (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ダルガス、としは今三十六歳、工兵士官として戦争に臨み、橋を架し、道路を築き、みぞを掘るの際、彼はこまかに彼の故国の地質を研究しました。
でもよいあんばいに、夫は眼鏡をすぐにかけた、例によって私の手足を事こまかにながめるために。………私は黙って枕もとのスタンドを消した。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こまかなばたきの効果を引立たせ、かすかにふるへてゐるあどけない唇に、もう罪を悔いるかのやうな色が見えました。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そんな事をいったってお父さん、長谷川さんの御新造ごしんぞさんだって、束髪に結って、こまっかいたまのついた網をかけている。
事実上じじつじょうこまかい注意ちゅういのこりなくおはつからおしえられたにしても、こんなときかあさんでもきていて、そのひざかれたら、としきりにこいしくおもった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日は眞晝、眼前の瀬は日光を受けて銀色に光り、峽間はざまの風は極めて清々すが/″\しく吹き渡り、こまかな榎の枝葉は斷えず青やかな響を立てゝそよめいてゐた。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
棕櫚しゅろの木はつい硝子ガラス窓の外に木末こずえの葉を吹かせていた。その葉はまた全体もらぎながら、こまかにけた葉の先々をほとんど神経的にふるわせていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ブルンブルン、こまかく機体をゆすっている爆音が、足もとから体に伝わって来る。——するとこれは夢ではないのだ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
嗜みなんどを事こまやかに探り知り、縁辺の仲介を致し、又は双方の相談相手になるのを仕事のように致しおる……という趣じゃが、それに相違ないか
が、恐ろしく癇癖かんぺきが強いに相違ない。膝に構えた両手がこまかく顫えて、頭巾から窺いている鋭い眼も赤く濁っている。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれはおつぎの意中いちうかいしてるので吸殼すひがらけつしてにつくところへはてないでこまかにんでそとついで他人たにん垣根かきねなかなどへ放棄ほうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
説明せつめいしたゞけではなんでもないことですが、この時代じだいに、これほどこまかくとらへがたいことをあらはしたひとはないのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
二三日前に帰った時にも、あっちこっちに一円二円とこまかい不義理ができて困っているという話を母親から聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
其時そのとき六十九になる、仕事師しごとしかしらといふほどではないが、世話番せわばんぐらゐの人に聞くと、わたし塩原しほばらいへ出入でいりをしてゐたが、こまかいことは知りませぬといふ。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは空氣くうき上層じようそうには通常つうじよう西風にしかぜがあるので、下層かそう風向かざむきの如何いかんかゝはらず、こまかな火山灰かざんばひ大抵たいてい大氣中たいきちゆう上層じようそうり、東方とうほうはこばれるにるからである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
またこれらのはかからたくさん漆器しつきさかづきぼんはこなどがましたが、その漆器しつきには、これをつくつたとき年號ねんごうつくつた人達ひとたちこまかくりつけてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
もしそういうことならば、これは墨の磨り口に出来るひびの問題と考えられる。硯の面にはこまかい不規則な小突起が沢山あって、いわゆる鋒鋩をなしている。
硯と墨 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それから、おほきな木材もくざいからこまかな纎維せんいをとつてかみをこしらへたり、そのほかにも使つかふようにもなり、最近さいきんでは人造絹絲じんぞうけんし原料げんりようにも澤山たくさん木材もくざい使つかつてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「そんなにこまかく毀れてしまったのですから、もう継げますまい。どうも今更仕方はございませんから、あきらめておしまいなすったがようございましょう。」
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから谷の深い処にはこまかなうすぐろい灌木かんぼくがぎっしり生えて光を通すことさえも慳貪けんどんそうに見えました。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人の間にあったことのこまかしい点は、僕の記憶きおくから消えうせていますし、またよしんば覚えているにしたところで、そんなことを、だれ面白おもしろがるでしょう?
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その日の朝、飜訳の原稿を少し届けて野村から借りてきた十五円と、他にこまいのが少しはいってる筈だった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
こまかい「ふけ」が浮いた抜毛のかたまりが古新聞の上にころがって、時々吹く風に一二本の毛が上の方へ踊り上ったり靡いたりして居る様子はこの上なくわびしい。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すると、空を流れるくもきぬのようにつややかなブナのみきこまかく入りくんだ枝、ブナの落ち葉をおおっているシモ、こうしたすべてのものがさっと赤くなりました。
「だが、云つておくがね、」と彼は續けた。「その分解の方法のこまかいことだの、内部の状態の話だので、私の邪魔をしてはいけないよ。することはだまつておやり。 ...
梶は咄嗟とっさのこととてすぐには返事出来なかった。もし外人の了解出来る適当な解釈をしようとすると、日本人の義理人情のこまやかさから説明しなければならなかった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
葉子の控え目なしおらしい様子がいやが上にも人のうわさを引くたねとなって、葉子という名は、多才で、情緒のこまやかな、美しい薄命児をだれにでも思い起こさせた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
くるわへはいって栄之丞を客にするようになってから、二人の親しみはいよいよこまやかになって来た。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
酒樽の場所などを出來るだけこまかに書いて貰ひ度いんだ——言ふ迄もないことだが、一人に一枚づつ書かせるんだぜ、他人の書いたのを見せると、かへつて迷はせるから
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
以上いじやうごどく、大體だいたい調査てうさんだのであるが、なほこまかに、小石こいしや、どろさらしてたら、玉類たまるゐ金環類きんくわんるゐ發見はつけんもあるのだらうが、それは坪井博士つぼゐはかせられてからにして
みずあわに浮んでいるこまかい砂の如くに、恋死こいじにもせずに果敢はかなくも生きているのか、というので、物に寄せた歌だから細砂のことなどを持って来たものだろうとおもうが
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
阿爺おとっさんは、亡児なきこ枕辺まくらべすわって、次郎さんのおさだちの事から臨終前後の事何くれとこまかに物語った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
湖水の面一面にこまかくふるえきらめくさざなみを見詰めているうちに私は驚くべき事実に気が付いた。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
のごときにあっては、露にぬるる肉体の感覚と別れに涙する心の動きとが、実に率直な律動のうちに渾然こんぜんとして響き合うのである。情緒の濃淡のこまやかな描写に至っては
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
で、その後のここの庭には、白々とうなじを日にさらして、その頸へかかった後ろ髪を、こまかく細かく細かく、顫わせて泣いているお菊のほかには、人の姿は見られなかった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼等は皆同じ様に椀被わんかむり頭をして居た。そして、同じ様なこまかい双子縞の衣服に黒い小倉帯をしめ、黒い皮鼻緒の雪駄せつたを穿いてちやら/\と前かゞみに忙しさうに歩いて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
巳之吉は大吹雪のこと、船頭小屋へ泊ったこと、茂作の奇怪な最期などをこまごまと話した。
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私は貴方がたの祖先の藝術ほど、私に心を打ち明けてくれた藝術を、他に持たないのである。またそこにおいてほど、人情にこまやかな藝術を持つ場合を他に知らないのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
真白いこまかな泡と泡とが、緑に、青に、紅に、薄黄に、紫に、初めは紫陽花、終まひには、小さな宝玉に分解して数限りもなく夏の暑熱と日光とに光る、呟やく、泣く、笑ふ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
え/″\として硝子がらすのそとに、いつからかいとのやうにこまかなあめおともなくつてゐる、上草履うはざうりしづかにびしいひゞきが、白衣びやくえすそからおこつて、なが廊下らうかさきへ/\とうてく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)