さえ)” の例文
……ふた黄金無垢きんむくの雲の高彫に、千羽鶴を透彫すかしぼりにして、一方の波へ、毛彫のさえで、月の影をさっと映そうというのだそうですから。……
このかすかな梅の匂につれて、さえ返る心の底へしみ透って来る寂しさは、この云いようのない寂しさは、一体どこから来るのであろう。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこでも、味いあますがゆえにいつも暗鬱あんうつな未練を残している人間と、飽和に達するがゆえに明色の恬淡にさえる人間とは極端な対象を做した。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
眞つ向から斬つたのは、あの月夜では懇意なものでなければならず、腕のさえから見て、私は御用人の外にないと見拔きました
夫人の言葉は、銘刀のように鮮かなさえを持っていた。信一郎が、夫人の奔放な言葉に圧せられたように、モジ/\している間に、夫人はボーイに合図した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お勢も今日は取分け気の晴れた面相かおつきで、宛然さながらかごを出た小鳥の如くに、言葉は勿論歩風あるきぶり身体からだのこなしにまで何処ともなく活々いきいきとしたところが有ッてさえが見える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
じつに見事な腕のさえであった。相手の下士官は、ついに一発の弾丸も放たないで、あの世へ旅立ったのだ。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よしや我身の妄執もうしゅうり移りたる者にもせよ、今は恩愛きっすて、迷わぬはじめ立帰たちかえる珠運にさまたげなす妖怪ようかい、いでいで仏師が腕のさえ、恋も未練も段々きだきだ切捨きりすてくれんと突立つったち
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ぽつ/\とむらがつた村落むら木立こだちいづれもこと/″\あかいくすんだもつおほはれてる。さうしてひくあひせつして木立こだちとのあひだ截然くつきりつよせんゑがいてそらにくほどさえる。さうだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
跡には友次郎只一人思ひまはせば廻す程お花の事が心にかゝねむらんと爲れども心さえ其上夜の更るに隨ひて漸次には多くなり右左より群付むれつくにぞ斯ては勿々なか/\眠られずと起上りて圍爐裏に柴を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
世間から款待もてはやされて非常な大文豪であるかのように持上げられて自分を高く買うようになってからの緑雨の皮肉はさえを失って、或時は田舎のお大尽のように横柄おうへい鼻持はなもちがならなかったり
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
近頃は戦さのうわささえしきりである。睚眦がいさいうらみは人を欺くえみの衣に包めども、解け難き胸の乱れは空吹く風の音にもざわつく。夜となく日となく磨きに磨く刃のさえは、人をほふる遺恨の刃を磨くのである。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
練りに練った日本砲術のさえを見よ!
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
さえは一刀
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ワルターの持つロマンティシズムと技巧のさえが、パリの練達な管弦楽団を得て、ベルリオーズの幻想を手際てぎわよく描いている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
けてこゝに、がたりびしりは、文章ぶんしやうさえで、つゑおと物凄ものすごみゝひゞく。なか/\くちつてもあぢこゑせぬ。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
眠られぬままに過去こしかた将来ゆくすえを思いめぐらせば回らすほど、尚お気がさえて眼も合わず、これではならぬと気を取直しきびしく両眼を閉じて眠入ねいッたふりをして見ても自らあざむくことも出来ず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
も幾年の学びたる力一杯鍛いたる腕一杯の経験修錬しゅれんうずまき起って沸々ふつふつと、今拳頭けんとうほとばしり、うむつかれも忘れ果て、心はさえさえ渡る不乱不動の精進波羅密しょうじんはらみつ、骨をも休めず筋をも緩めず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宵々よひ/\稻妻いなづまは、くもうす餘波なごりにや、初汐はつしほわたるなる、うみおとは、なつくるまかへなみの、つゞみさえあきて、松蟲まつむし鈴蟲すゞむしかたちかげも、刈萱かるかやはぎうたゑがく。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
修業の功をつみし上、憤発ふんぱつの勇を加えしなればさえし腕は愈々いよいよえ鋭きとういよいよ鋭く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ハイフェッツに技巧の驚くべきさえはあっても、メニューインの天賦てんぷの輝きには及び難いかも知れない。「第三ソナタ=ハ長調」もメニューインのがある(ビクターJD一五〇八—一〇)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
先刻さっき口を指したまま、うろこでもありそうな汚い胸のあたりへ、ふらりと釣っていた手が動いて、ハタと横を払うと、発奮はずみか、さえか、折敷ぐるみ、バッタリ落ちて、昔々
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
合気の術は剣客武芸者等の我が神威を以て敵の意気をくじくので、鍛錬した我が気のさえを微妙の機によって敵に徹するのである。正木まさき気合きあいはなしを考えて、それが如何なるものかをさいすることが出来る。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
帽子のうちの日の蔭に、長いまつげのせいならず、おいを見た目にさえがなく、顔の色も薄く曇って
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっみはった、目のさえは、勇士がつるぎむるがごとく、袖を抱いてすッくと立つ、姿を絞って、じりじりと、絵図のおもてに——捻向ねじむく血相、暗い影がさっして、線を描いた紙の上を
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今度こんどのは完成くわんせいした。して本堂ほんだう正面しやうめんに、さゝえかず、内端うちはんだ、にくづきのしまつた、ひざはぎ釣合つりあひよく、すつくりとつたときはだえ小刀こがたなさえに、あたかしもごとしろえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宛如さながら、狂人、乱心のものと覚えたが、いまの気高い姿にも、あわてゝあとへ退かうとしないで、ひよろりとしながら前へ出る時、垂々たらたらと血のしたたるばかり抜刀ばっとうさえが、みゃくを打つてぎらりとして
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お妻の胸元を刺貫き——洋刀サアベルか——はてな、そこまでは聞いておかない——返す刀で、峨々ががたる巌石いわおそびらに、十文字の立ち腹を掻切かっきって、大蘇芳年たいそよしとしの筆のさえを見よ、描く処の錦絵にしきえのごとく
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たがねはほんとうのを懐中ふところから、鉄鎚かなづちを取って、御新造さんとじっと顔を見合って、(目はこう入れたわ。)とん!(左は)ちょうと打込むさえに、ありありとお美しい御新造さんのびんのほつれをかけて
またみさき大蛇灘おろちなだいて、めぐつて、八雲崎くもさき日暮崎くれのさき鴨崎かもさき御室みむろ烏帽子岩えぼしいは屏風岩べうぶいは剣岩つるぎいは、一つ一つ、かみおのち、おにが、まさかりおろしたごとく、やがては、巨匠きよしやう名工めいこうの、鑿鏨のみたがねさえ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
処々ところどころ汽車の窓からた桜は、奥が暗くなるに従って、ぱっとさえを見せて咲いたのはなかった。薄墨うすずみ鬱金うこん、またその浅葱あさぎと言ったような、どの桜も、皆ぽっとりとして曇って、暗い紫を帯びていた。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こぶしさえに、白刃しらはさきが姉の腕をかすって、カチリと鳴った。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と腰を入れると腕のさえさっと吹いて、鱗がぱらぱら。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)