鳥肌とりはだ)” の例文
全身鳥肌とりはだ立って背筋から油汗がわいて出て、世界に身を置くべき場所も無く、かかる地獄の思いの借財者の行きつくところは一つ。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わずかに残った胡麻塩ごましおの毛が、後頭部を半ばおおった下に、二筋のけんが、赤い鳥肌とりはだの皮膚のしわを、そこだけ目だたないように、のばしている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「むづかしい顏は大笑ひだ、盆栽ぼんさいに毛虫が湧いたんだよ。少し機嫌が惡かつただけのことさ、——あの毛の生えたのを見ると、鳥肌とりはだが立つんでね」
ふたりは、鳥肌とりはだになっていた。あかつきの地の冷えに反して、相互の血は、その皮膚の下で、たぎりあっていた。
見る見る胴体から胸のほうにかけて黄色いぽツぽツのある鳥肌とりはだがむきだしになった。その毛の抜けた格好のぶざまなのが、皮肉なような、残酷な感じがするものでね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その男は寒そうに鳥肌とりはだになった顔で、女王の居間のほうへ客の手紙を届けに来た。返事を書く紙は香のきこめたものでなければと思いながら、それよりもまず早くせねばと
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この精悍な博徒の、もともと、肺患から来る、不健康な青白い皮膚に、不気味な鳥肌とりはだが立ち、歯が、ときどき、ガチガチと鳴っているのを見れば、ただごとではないことがわかる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
僕の顔から血がさっとひいて、皮膚が鳥肌とりはだになるのが、僕自身にもよく分った。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わかい男女の恋の会話は、いや、案外おとなどうしの恋の会話も、はたで聞いては、その陳腐ちんぷ、きざったらしさに全身鳥肌とりはだの立つ思いがする。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
湯から上がったばかりなのに、市十郎は、鳥肌とりはだになった。行えばその兇猛をかえりみぬ彼の性情を知っているし、かれの行為は、ただちに、自分の連帯行為となるからだった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友だちは、いよいよ裸になつたなどと、——考へただけでも鳥肌とりはだになる。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
遠い向うの、遠い向うの、とおちょぼ口して二度くりかえして読みあげた時には、わしは、全身、鳥肌とりはだになりました。ひどかったねえ。見ているほうが恥ずかしく、わしは涙が出ました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
ふたりは冷然と、鳥肌とりはだにそそけ立った五百之進の顔を振りかえって
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぱちぱちはぜる気味悪い音も聞えて、一陣の風はただならぬにおいを吹き送り、さすがの女賊たちも全身鳥肌とりはだ立って、固く抱き合い、姉は思わずお念仏をとなえ、人の末は皆このように焼かれるのだ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)