駻馬かんば)” の例文
一度ひとた手活ていけの花にして眺めると、地味で慾張りで食辛棒くいしんぼうで、その上焼餅やきで口数が多くて、全く手の付けようのない駻馬かんばと早変りするのです。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それが二十円になったときには村のものらは眼を見張ったものだが、今は誰もが、暴れ放された駻馬かんばを見るように田の面を見ているばかりである。
うまといふやつはあの身體からださけの二はいくちいれてやるとたちまちにどろんとして駻馬かんばでもしづかる、博勞ばくらう以前いぜんはさうしてわるうまんだものである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
髪の毛がちぢれて赤く、ちよん髷ぐらゐに小さく結んで、年中親爺をどなりつけながら、駻馬かんばのやうな鼻息である。
古都 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
すぐそこへ来た駻馬かんばは、高氏の手綱にしぼられ、相寄ろうにも、急には自由にならなかった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっさい、ブロムは、悪いことばかりする駻馬かんばに好んで乗るので評判が高かった。
今、二騎の侵入兵が、その駻馬かんばを躍らせて、さっとばかりに飛び込んで来たが、逃げ惑う一人の若い信徒を、両馬の間へ追い詰めると、馬上ながら手を延ばし、あッと云う間に引っさらった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次と八五郎と、それを案内して來た下男の磯松いそまつが、三頭の駻馬かんばのやうに、彈みきつて驅け込むと
年中駻馬かんばの鼻息でキイ/\声をふりしぼりながら、竈の前で親爺をこき使つてゐるのである。
孤独閑談 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
追手の武士七人の駻馬かんばは、瞬たく間にそこへ近づいて来た。——と見て、新九郎はげていた玄蕃の首を門前から松平家の囲いの中へ塀越しにポンと投げ込んでしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読みながら、駻馬かんばと鼻をつきあわしているようで、そういう面くらった面白さはあった。
気転きてんをはたらかせていたら、駻馬かんばの一ムチ、天皇はその日にとらわれていたことだろう。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師直はあわてて、もいちど、藤夜叉の肩ごしに、ひと言ふた言、柄にもない優しいことばをささやいていた。そして、駻馬かんばの如く身をひるがえすやいな彼方の疎林の下を駈けくぐって行ってしまった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)