)” の例文
『…………さうさね。海上の生活には女なんか要らんぢやないか。海といふ大きい恋人のはらの上を、縦横自在にけ廻るんだからね。』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夢は再びおどる。躍るなと抑えたるまま、夜を込めて揺られながらに、暗きうちをける。老人は髯から手を放す。やがて眼をねむる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その寂しい抒情的な気分には、聖観音の古典的な力は、あまりに縁が遠過ぎたかもしれません。だから奈良は、そうけて通ってはだめです。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
リーンとすんだ自転車のベルがけぬけてゆく。久しぶりに聴く都会の夏の夜らしい物音に、ひろ子は懐しく耳を傾けた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
悪童たちを蹴ちらし、郎党たちのやいばいて、暗い野末へ、団々たる火のかたまりを負ってけて行く。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまる! 東雲しのゝめの、はるか/\の海上かいじやうより、水煙すいゑんげ、怒濤どとうつて、驀直まつしぐら一艘いつそう長艇ちやうていあり、やゝちかづいてると、その艇尾ていびには、曉風げふふうひるがへ帝國軍艦旗ていこくぐんかんき! るより
けつけて行って聞いてみると、案に相違して、今、高僧が来着したから、礼砲を打ったのだという話であります。駛けつけた連中は、非常に吃驚りいたしまして、帰ってそれを城中へ報告します。
『……………さうさね。海上の生活には女なんからんぢやないか。海といふ大きい戀人のはらの上を、縱横自在にけ𢌞るんだからね。』
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
隣の野沢組のビルディングの四階の窓越しにあわててけて行く女の姿が見えた、と思う瞬間に突然その建物が低くなってパッと立ちのぼるほこりの中に見えなくなった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
なおそれ以上に物を取り出そうとすれば出せないでもなかったが、その代わり誰かが怪我けがをしたかも知れない。小石川からけ戻った岩波がそれをとめたので、原稿と帳簿の他は丸焼けになった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)