とどま)” の例文
明治三十八年五月四日の午後、阿吉牛堡あきつぎゅうほうとどまっていた、第×軍司令部では、午前に招魂祭しょうこんさいを行ったのち余興よきょうの演芸会をもよおす事になった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
母は驚き、途方にれたる折しも、かどくるまとどまりて、格子のベルの鳴るは夫の帰来かへりか、次手ついで悪しと胸をとどろかして、直道の肩を揺りうごかしつつ、声を潜めて口早に
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
日向はわずかに低地をへだてた、灰色の洋風の木造家屋にとどまっていて、その時刻、それはなにか悲しげに、遠い地平へ落ちてゆく入日を眺めているかのように見えた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼らがとどまることを許された川のあちら側には、節食節衣の生活がみじめな口をあげていた。川を渡ればこちらでは、官の補給が行きとどいていた。道も築かれている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
洛内にとどまっている諸大将には、大仏貞直、金沢貞冬、長崎四郎左、千葉貞胤さだたね、結城親光、六角時信、小山秀朝、江馬越前守、三浦ノ介の入道などが十数ヵ所に門を張っているが
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頂上にとどまること約一時間にして、午後一時十五分林道を栃本に向って下り始める。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その町へ着くまでに、汽車は寂しい停車場に、三度も四度もとどまった。東京の居周いまわりに見なれている町よりも美しい町が、自然の威圧にじ疲れて、口もけないようなお島の目に異様に映った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「——孔明の大陣、三十里いてしばらくとどまる」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)