顔触かおぶれ)” の例文
旧字:顏觸
岸本が毎日食堂で見る顔触かおぶれは、産科病院わきの旅館から通って来る柳博士に隣室の高瀬の二人で、若い独逸ドイツ人の客は最早もう見えなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手頃の乾児を二三人連れて行くとしたら、一体誰を連れて行こう。そう思うと、彼の心の裡では、直ぐその顔触かおぶれきまった。平生の忠次だったら
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
当時の社長は沼間守一ぬましゅいち、主筆は島田三郎、会計係は波多野伝三郎はたのでんざぶろうという顔触かおぶれで、編輯員には肥塚龍こえづかりゅう、青木ただす、丸山名政めいせい荒井泰治あらいたいじの人々がいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
牛伴ぎゅうはん(為山)、松宇、桃雨、猿男さるお得中とくちゅう、五洲、洒竹、紫影しえい爛腸らんちょう(嶺雲)、肋骨ろっこつ木同もくどう、露月、把栗、墨水、波静、虚子らの顔触かおぶれであったかと記憶して居る。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その議員の多数の顔触かおぶれを一見しただけで既に莫迦々々ばかばかしいという気がするのでした。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
まだ他の顔触かおぶれも一人二人見えた。一時は塾の連中がこぞってそこへ集ったことも有ったが、次第に子安の足も遠くなり、桜井先生もあまり顔を見せない。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると、男女が三、四人やって来たが、昨夜の顔触かおぶれとは全然ちがっている。そして、家の中へはいるとしとみを上げ掃除そうじなどをして、かゆと強飯こわめしとを主人の女とその男に給仕した。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
新どん、吉どん、とらどんのような見知った顔触かおぶれの外に、二三の初めて逢う顔も混っている。その時捨吉は大勝の御店おたなの方の若手が揃ってここへ手伝いに来ていることを知った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)