顔中かおじゅう)” の例文
旧字:顏中
かれはどっかりすわった、よこになったがまた起直おきなおる。そうしてそでひたいながれる冷汗ひやあせいたが顔中かおじゅう焼魚やきざかな腥膻なまぐさにおいがしてた。かれはまたあるす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そうしたら八っちゃんはしばら顔中かおじゅうを変ちくりんにしていたが、いきなり尻をどんとついて僕の胸の所がどきんとするような大きな声で泣き出した。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
殊に赤と白と三角模様の倭衣しずりそでをまくり上げた、顔中かおじゅうひげうずまっている、せいの低い猪首いくびの若者は、誰も持ち上げない巌石を自由に動かして見せた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あんなに僕のことを思ってくれるおとうさんやおかあさんがほかにあるはずはないのですもの。僕は急に勇気が出て来て顔中かおじゅうがにこにこ笑いになりかけて来ました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかも木樵りの爺さんは顔中かおじゅうに涙を流したまま、ひらあやまりにあやまっているではありませんか!
女仙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)