鞘当さやあて)” の例文
旧字:鞘當
猛烈な達引たてひき鞘当さやあての中に、駒次郎が次第に頭をもたげ、町内の若い衆も、勝蔵も排斥して、お勢の愛を一人占めにして行く様子でした。
芝居の「鞘当さやあて」の背景に見るような廓の春を描き出すことになったのは、この物語の主人公がほろびてから二十年余の後であった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「構わぬ、すておけ、すておけ。町人輩が小判で客止めしたとあらば、身共はたんと意気で鞘当さやあてして見しょうわ。——ほほう喃、なかなか風雅な住いよのう」
三五郎という前髪と、その兄分の鉢鬢奴ばちびんやっことの間の恋の歴史であって、嫉妬しっとがある。鞘当さやあてがある。末段には二人が相踵あいついで戦死することになっていたかと思う。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今まで瑠璃子夫人をさしはさんで、鞘当さやあて的な論戦の花が咲いたことは幾度となくあったが、そんな時に、形もなく打ち負された方でも、こんなにまで取りみだしたものは一人もなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
やれ総助の処の末の娘が段々色気が付いて来たのと下らぬ噂をするばかりならまだ好いが、若者と若者との間にその娘に就いての鞘当さやあてが始まる、口論が始まる、喧嘩が始まる、皿が飛ぶ
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
するとここに美貌の一王子があってその男禁制の場所へ忍びこむ。この王子を取り巻いて女官達の間に恋の鞘当さやあてがはじまる。と言ったような筋で、イダルゴがその美男の王子に扮して大評判だった。
片側は榎並木えのきなみき、ところどころに一膳飯屋、牛の草鞋わらじをぶら下げた家などがあり、人通りもごく稀なので、今しも、蹌々踉々そうそうろうろうと、千鳥足を運んでゆく一人の浪人にも、誰あって、鞘当さやあてをする心配がない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎さんの鞘当さやあての相手になるものか。お前にはもっと結構な娘を見付けてやるよ。——あの茂野さんのような。なア、八
わたしはこの人たちによって、不完全ながらも「鞘当さやあて」や、「熊谷陣屋くまがいじんや」や、「勘平かんぺい腹切はらきり」や、劇に関するいろいろの知識を幼い頭脳に吹き込まれた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おいちゃいちゃの巴御前ともえごぜん、兄が留守したとても、あんまり京弥とおいちゃいちゃをしてはいかんぞよ。兄はすばらしい恋の鞘当さやあて買うてのう。久方ぶりで眉間傷が大啼きしそうゆえ上機嫌じゃ。
日本橋界隈かいわいにはすっかり売込んでおりますが、一時、お静が両国の水茶屋にいた頃、それを張って、張って、張り抜いて、銭形の平次と鞘当さやあてをやった男。
大阪では子役中の麒麟児きりんじと呼ばれ、鴈治郎がんじろうですらも彼に食われるとかいう噂であったが、初上はつのぼりのせいか、曾我の対面の鬼王と鞘当さやあて留女とめおんなの二役だけで、格別の注意をひかなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
原庭はらにわ才三さいぞうというのに熱くなって、女だてらに、鞘当さやあてをしているという噂もありました。
「いずれ面白くない事があったとすれば、鞘当さやあて筋だろう」