そっ)” の例文
旧字:
「斯ういう処にいてかせぎに出るのかなあ!」と、私は、きたないような、浅間しいような気がして、暫時しばらく戸外そとに立ったまゝそっと内の様子を見ていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あの墓石を寄せかけた、塚の糸枠の柄にかけて下山した、提灯が、山門へ出て、すこしずつ高くなり、裏山の風一通り、赤蜻蛉がそっと動いて、女の影が……二人見えた。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
段々寒くなってからは、お前がした通りに、朝の焚き落しを安火あんかに入れて、寝ている裾からそっと入れてくれた。——私にはお前の居先きは判らぬ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
うそうそとまた参った……一度屈腰かがみごしになって、そっと火薬庫の方へ通抜けて、隣邸の冠木門かぶきもんのぞく梅ヶ枝の影にすがってとまると、くだんの出窓に、鼻の下をのばして立ったが、眉をくしゃくしゃと目をねむって
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やっと私を許してから三四分間経って此度は俯伏しになって、そっひとの枕の上に、顔を以て来て載せて、半ば夢中のようになって、苦しい呼吸いきをしていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)