雄勁ゆうけい)” の例文
西岡未亡人の家にはそんなわけで、西岡医院開設当時に贈られた蒼海翁そうかいおうのあの雄勁ゆうけいな筆力を見せた大字の扁額へんがくを持ち伝えていた。
それは内面的で、雄勁ゆうけいで、しばしば高踏的でさえあるが、世にも不思議な滋味と渋さとを持ったものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
肩や両脇りょうわき太紐ふとひもで荒くかがって風のけるようにしてある陣羽織じんばおり式の青海流の水着をぐと下から黒の水泳シャツの張り付いた小初の雄勁ゆうけいな身体がき出された。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其瞬間息がつまるように感じた。こんなに綺麗でそして雄勁ゆうけいな山の膚や輪廓を見た事がない。余り綺麗なのであつらえた物ではないかと、不図ふとそんなかんがえが浮んだ程である。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
すなわち無益なる空言をつつしめとの意である。ビルダデのこのヨブ攻撃は、殊に第四節の如きは、罵詈ばりの語としては簡潔雄勁ゆうけいにして、正に独創的の警句というべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
また山水画は『銀世界』及び『狂月望きょうげつぼう』等の絵本において石燕風せきえんふう雄勁ゆうけいなる筆法を示したり。摺物すりものおうぎ地紙じがみ団扇絵うちわえ等に描ける花鳥什器じゅうきの図はその意匠ことに称美すべきものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
荒っぽくけずられた、体のわりに大きい足は、頭部の半ばを占めている偉大なくちばしと共に、奇妙にのんきな、それでいて力強い、かなり緊張した印象を与える。簡素で、雄勁ゆうけいで、警抜である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あれ程綺麗でそして雄勁ゆうけいな山の膚や輪廓を見たことがない。野辺山原から雪の晴れた朝、眉を圧して聳え立つ八ヶ岳の群巒ぐんらんを額越しに見上げて、其瑰麗かいれいな姿に満足しない者があるだろうか。
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
先ず客を招く準備として、襖絵ふすまえ揮毫きごう大場学僊おおばがくせんわずらわした。学僊は当時の老大家である。毎朝谷中やなかから老体を運んで来て描いてくれた。下座敷したざしきの襖六枚にはあしがん雄勁ゆうけいな筆で活写した。