陳列棚ちんれつだな)” の例文
呉服売場や陳列棚ちんれつだなの前で見るような恐ろしい険しい顔はあまりなくって、非常に人間らしい親しみのある顔が大部分を占めている。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そーっとはいり込んで、陳列棚ちんれつだなの上に飛び上がって、ひょいと帽子ぼうしけて素知そしらぬ顔をしていました。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
左を向いて、奥正面と、右の壁とが、陳列室よりも、もっとひろいたながあり、まえにドアつきの四角い陳列棚ちんれつだなが、それぞれ小さい番号札をつけて、整然とならんでいた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのなかわたしがはひつてくと、陳列棚ちんれつだなかげほう一人ひとり少年しようねんがゐて、手帳てちようしていつしょう懸命けんめいたものについて筆記ひつきしてゐました。わたしはこの少年しようねん熱心ねつしんさに感心かんしんしたので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
たすきがけでこそこそ陳列棚ちんれつだなき掃除をしている柳吉の姿は見ようによっては、随分男らしくもなかったが、女たちはいずれも感心し、維康さんも慾が出るとなかなかの働き者だと思った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そうして注文部と小売部と連絡がないためか、店の陳列棚ちんれつだなにそれが現存していても注文した分が着荷しなければ送ってくれなかったりする。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
針目博士は、陳列棚ちんれつだなの前に立って、戸のしまっている棚をイと八つかぞえた。その小さい戸の上には、骸骨がいこつのしるしと、それから一、二、三の番号とが書きつけてあった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして書店の陳列棚ちんれつだなに「ゴルフの要訣ようけつ、梅本鶴吉著」という本があったとすると、十人が九人まで「本」を「木」と読んでその本を買って来るであろう。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大きな書店の陳列棚ちんれつだなをひやかしていると、実にたくさんの本がある。俳句の本、山登りの本、唯物論的弁証法の本、ゴルフの本、なんでも無いものはないように見える。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
簡単な言葉と理屈で手早くだれにもわかるように説明のできる事ばかりが、文明の陳列棚ちんれつだなの上に美々しく並べられた。そうでないものは塵塚ちりづかに捨てられ、存在をさえ否定された。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)