阿爺おとっ)” の例文
「大方そんなことだろうッて、阿爺おとっさんもうわさしていましたッけ——阿爺さんが貴方のことを、『父さんも余程兄弟孝行だ』なんて——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
阿爺おとっさんが天狗になってお囃子はやしってるのじゃないかと思うと、急に何だか薄気味うすきび悪くなって来て、私は頭からスポッと夜着よぎかむって小さくなった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
阿爺おとっさん。今日ね、久しぶりに髪結床かみゆいどこへ行って、頭を刈って来ました」と右の手で黒いところをで廻す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういう阿爺おとっさんらしい話を聞きながら古い城門の前あたりまで行くと馬に乗った医者が私達に挨拶して通った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
阿爺おとっさんに叱られるけれど、と言いながら、詰り桟俵法師さんだらぼうしを捜して来て、履脱くつぬぎの隅に敷いて遣った——は好かったが、其晩一晩啼通なきとおされて、私はちっとも知らなんだが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「弁慶は法科にいたんだね。君なんかは横川の文科組なんだ。——阿爺おとっさん叡山えいざんの総長は誰ですか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
チョンまげを結った阿爺おとっさんがってくれたのだ。高瀬はその鉄の目方の可成かなりあるガッシリとした柄のついた鍬を提げて、家の裏に借りて置いた畠の方へ行った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「やあ……札が附いてたって、殺されますから。へえ。僕ンとこ阿爺おとっさんが……」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「奇麗にもならんじゃないかって、阿爺おとっさん、こりゃ五分刈ごぶがりじゃないですぜ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三吉は一ぱい物の散乱ちらかしてある縁側のところへ行って、この阿爺おとっさんとも言いたい年配の人の前に立った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「この阿爺おとっさんも、ちったア御百姓の御話が出来ますから、御二人で御話しなすって下さい」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私は阿爺おとっさんの亡くなる時分のことをよく知りません。御蔭で今夜は種々なことを知りました」と三吉は嫂に言った。「あれで、阿爺さんは、平素ふだんはどんな人でしたかネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「よくよく困った時でなければ出すなッて、阿爺おとっさんに言われて貰って来たんですが……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)