阿父おとつ)” の例文
今夜のクリスマスを以て其の開校式を挙げた積りのです、——兼吉君のことは花さん、既に御聞になつたでせう、兼吉君の阿父おとつさんが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
阿父おとつさんとは打つて変つた酒飲みで、酒さへあれば、天国などは質に入れてもいといふたちで毎日浴びる程酒を飲んでは太平楽を言つてゐた。
飲酒家 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
阿父おとつさんてえ人が居なすつて、どうにもあたしの心のままにァならなかつたの、そのうち阿父さんは死んでおしまひだし……
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
阿父おとつさんや阿母おつかさんにもよろしく云つてください。病人も御覧の通りで、もう心配することはありませんから。」と、大野屋の伯母おばは云つた。
阿父おとつさんや阿母おつかさんの身になつたら、さう思ふのは無理も無いけれど、どうもこのままぢや私が気が済まないんですもの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「君、鋳物をやる気はないんかね。阿父おとつさんの伝法でやつて行きや、忽ち日本一だが。」
「だけど、阿母おつかさん、そりや阿父おとつさんが生きておいでだツたら、此様に世帶せたいの苦勞をしないでゐられるかも知れないけれども、其のかわりまた何様な苦勞かあるか知れたもんじやないのね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
阿父おとつつあん、そのことなら、カテリーナよりも、この私に訊ねて頂きませう! 女房ではなく、良人が責任を負ふ。それがわれわれのならはしですから、どうか悪く思はないで下さい!」
阿父おとつさんとは打つて変つた酒飲みで、酒さへあれば、天国などは質に入れてもいといふたちで毎日浴びる程酒を飲んでは太平楽を言つてゐた。
「どうも取んだ事で、阿父おとつさんの様子はどんな? 今朝新聞を見るとおどろいて飛んで来たのです。容体ようだいはどうです」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
耶蘇基督イエスクリストと云ふお方の御誕生日を、御一所にお祝ひたさうと思つたからです、貴所方あなたがたみんな生れなすつた日がある、其日になると、阿父おとつさんや、阿母おつかさんが、今日は誰の誕生日だからと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なあ、カテリーナ! どうもお前の阿父おとつつあんは俺らと仲よく暮すのが、面白くないらしいぢやないか。帰つて来た時からして、妙に気難かしく、まるで何か怒つてゐるやうに刺々とげとげしてゐる……。
母様の涙は少ししほつぽいが、忠朝の墓の水はひやつこい。どちらも妙に酒飲みの阿父おとつさんには効力きゝめがあるといふ事だ。
それもこれも知つてゐながら、阿父おとつさんを踏付にしたやうなおこなひを為るのは、阿母おつかさん能々よくよくの事だと思つて下さい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
阿父おとつさんが国会開設の運動に、地所も家も打ち込んで仕舞ひなすつたので、今の議員などの中には、大和君のうちの厄介になつた人が幾人あるとも知れないが、今ま一人でも其の遺児を顧るものは無い
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
左衛門尉は馬に乗つてつて来た。石黒氏は阿父おとつさんに催促せられて慌てて頭を下げてゐた。左衛門尉は自分の前にきのこのやうにつくばつてゐるこの二人に目をつけた。
そこには百合子女史が背の高い阿父おとつさんと一緒に立つてゐる写真版が載つてゐた。
それは自分に子供があるといふ事を忘れるので、訥子には世間も知つてゐる通り、帝劇俳優やくしやの宗之助、長十郎といふ二人の息子があるが、彼は一度だつて自分を「阿父おとつさん」と呼ばせた事が無い。