鍋蓋なべぶた)” の例文
「気のせいで熱が出るんだから、気のせいでそれがまたすぐ除れるんだろうよ。髪剃でなくったって、杓子しゃくしでも鍋蓋なべぶたでも同じ事さ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
塩湯で柔くなるまで湯煮てぐ使わなければ塩水かあるいは上等にすればスープの中へつけておいて茄子のような物は鍋蓋なべぶたか何かで押て水気を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
卯平うへいやつれたあをかほをこちらへけてた。かれねむつてた。おつぎはすや/\ときこえる呼吸いき凝然ぢつみゝすました。おつぎはそれから枕元まくらもと鍋蓋なべぶたをとつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
附近に在る大ススキ山と小ススキ山は、千九百十五米の三角点ある桟敷さじき山と千九百八十米の小在池こざいけ山に当っている、そしてコサイケ山とあるのは鍋蓋なべぶた山らしく思われる。
上州の古図と山名 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その前、わが国にて豚を養えるものなきときに、「ブタ」の見せ物の看板を掲げておいた。これを見るものその内部に入れば、鍋蓋なべぶた一枚を置いてあったという話も同じことじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
鍋蓋なべぶた、古手拭、茶碗のかけ、色々の物ががつて来て、底は清潔になり、水量も多少は増したが、依然たる赤土水あかつちみづの濁り水で、如何に無頓着の彼でもがぶ/\飲む気になれなかつた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
鍋蓋なべぶた古手拭ふるてぬぐい、茶碗のかけ、色々の物ががって来て、底は清潔になり、水量も多少は増したが、依然たる赤土水のにごり水で、如何に無頓着の彼でもがぶ/\飲む気になれなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鍋蓋なべぶたといふ道具には氣がつかなかつたよ、——いや、恐ろしいことだ、——尤も、あの時和蘭の錢を投るために十手を左手に持ち換へたのをあの浪人者が氣が付かなかつたのは天罰さ」
その前、わが国にて豚を養えるものなきときに、「ブタ」の見せ物の看板を掲げておいた。これを見るもの、その内部に入れば、鍋蓋なべぶた一枚を置いてあったという話も同じことじゃ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
鍋蓋なべぶたという道具には気がつかなかったよ、——いや、恐ろしいことだ、——尤も、あのとき和蘭の銭を投げるために十手を左手に持ち換えたのをあの浪人者が気が付かなかったのは天罰さ」