銀鎖ぎんぐさり)” の例文
里紗絹リヨンぎぬ襦袢じゅばん綾羅紗あやらしゃの羽織。鏤美ルビーの指輪を目立たぬように嵌めているのもあれば、懐時計ウォッチ銀鎖ぎんぐさりをそっと帯にからませているのもある。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
老紳士は低い折襟に、黒いネクタイをして、所々すりきれたチョッキの胸に太い時計の銀鎖ぎんぐさりを、物々しくぶらさげている。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年の頃は五十前後、充分に脂切あぶらぎつて、ギラギラする袷や、銀鎖ぎんぐさりの逞ましい煙草入や、身の廻りの物一つ/\にも、馬鹿々々しい見得があふれて居ります。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
安政四年になって銀鎖ぎんぐさり煙草入たばこいれ流行はやった。香以は丸利にあつらえて数十箇を作らせ、取巻一同に与えた。古渡唐桟こわたりとうざんの羽織をそろい為立したてさせて、一同にあたえたのもこの頃である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
象牙の根附ねつけ銀鎖ぎんぐさり附きたる菖蒲皮しょうぶかわさげ煙草入、駒下駄と云ふこしらへにて、きつかけなしに揚幕より出で、金五郎を呼び止めて意見をし、花道にいきかけたる勘十郎に向ひて、堪忍の歌を繰返し
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
三十前後の小柄な好い男で、素袷すあはせ銀鎖ぎんぐさりの肌守り、腕から背中へ雲龍の刺青ほりものがのぞいて、懷中にはさやのまゝの匕首あひくちが、無抵抗に殺されたことを物語つてをります。