鈍根どんこん)” の例文
また鈍根どんこんの子弟をじしめて、小禽しょうきんといえども芸道の秘事を解するにあらずや汝人間に生れながら鳥類にもおとれりと叱咜しったすることしばしばなりき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それからその寺で足掛け十六年、わたしが二十六の年まで修業を積みまして、生来鈍根どんこんの人間もまず一人並の出家になり済ましたのでござります。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
東海坊といふ修驗者は、經文一つ讀めないやうな、無學鈍根どんこんの男ですが、生得不思議な精神力の持主で、——今日の言葉で言へば、自己催眠さいみんといふ類のものでせう。
筑後梁川やながわの藩に大石進という者がある。性質愚に近いほどの鈍根どんこんで、試合に出ては必ず負ける。後輩年下の者にさえさんざんに打ち込まれる。そのたびごとに笑われあざけられる。
闇夜やみよの発光文字のごとくに、必要なみちだけがハッキリ浮かび上がり、他は一切見えないのだ。我々鈍根どんこんのものがいまだ茫然ぼうぜんとして考えもまとまらないうちに、悟空はもう行動を始める。
のみならず親の手前世間の手前面目ない。人から土偶でくのようにうとまれるのも、このおれを出す機会がなくて、鈍根どんこんにさえ立派に出来る翻訳の下働きなどで日を暮らしているからである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梁川君は端的たんてきに其求むるものを探し当てゝ、堂々と凱旋し去った。鈍根どんこんの彼はしば/\とらえ得たと思うては失い、つかんだと思うては失い、今以て七転八倒の笑止な歴史を繰り返えして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鈍根どんこんはいくらやるつもりでかかって何もできないで終るのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しょせん自分は地中の鈍根どんこん
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東海坊という修験者は、経文一つ読めないような、無学鈍根どんこんの男ですが、生得不思議な精神力の持主で、——今日の言葉で言えば、自己催眠という類のものでしょう。
何も結構な家に生れて世過よすぎに不自由のない娘をそれほどに教え込まずとも鈍根どんこんの者をこそ一人前に仕立ててやろうと力瘤ちからこぶを入れているのに、何という心得違いをいうぞといった
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「生れながらの鈍根どんこんだな、お前は」