逸疾いちはや)” の例文
逸疾いちはやく出発して行くのもいた。塩魚売りも、冶師やしも、飴屋あめやも、生姜しょうが売りも、姿は見えなかった。明日は珍富と大和に市が立つ。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
一掴み馬上に掻遣かいやり、片手に手綱を控えながら、一蹄いってい三歩、懸茶屋の前に来ると、くだんの異彩ある目に逸疾いちはやく島野を見着けた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言い懸けて、渋茶にまた舌打しながら、円い茶の子を口のはたへ持ってくと、さあらぬかたを見ていながら天眼通でもある事か、逸疾いちはやくぎろりと見附けて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七兵衛は腰をめて、突立つったって、逸疾いちはやく一間ばかり遣違やりちがえに川下へ流したのを、振返ってじっとみつ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
判事に浮世ばなしを促されたのをしおにお幾はふと針の手を留めたが、返事よりさき逸疾いちはやくその眼鏡を外した、進んで何か言いたいことでもあったと見える、別の吸子きゅうすたぎった湯をさして
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という、高がこんな下駄を(しかねめえ。)というほどの事はあるまいと思うほど、かしら為振しぶりを見て、婆さんはこの年紀としになってもそのまぶたの黒い目に、逸疾いちはや仔細しさいがあろうと見て取った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)