這々はふ/\)” の例文
「馬道の三五郎親分のところにゐましたよ。すつからかんに叩いて、夜が明けてから這々はふ/\の體で歸つたのをみんな知つてゐまさア」
とほりかゝつた見知越みしりごしの、みうらと書店しよてん厚意こういで、茣蓙ござ二枚にまいと、番傘ばんがさりて、すなきまはすなか這々はふ/\ていかへつてた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
出先で、妖怪に逢ひ這々はふ/\の体で自分の家に逃げ帰ると、その恐ろしい魔物が、先廻りして、自分の家に這入り込んでゐる。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
石橋山いしばやまのたゝかひ敗れて、頼朝めは散々の體たらく。噛合ひに負けた痩犬のやうに、尻尾をまいて這々はふ/\の體で逃げまはる。暗さは暗し、雨はふる。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
相手はそれに輪をかけた凄腕すごうでで、いづれも一刀兩斷にしてやられるか、運よくて、這々はふ/\の體で逃げ歸るのが關の山でした。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
父の一喝に逢つて、這々はふ/\の体で、逃げ帰つた杉野子爵は、ほんの傀儡で、その背後に怖ろしい悪魔の手が、動いてゐることを感ぜずにはゐられなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
伴左衞 おれが鐵扇で眉間を一つ撃つて遣つたら、縁から轉げ落ちて這々はふ/\の體で逃げて行つた。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
這々はふ/\の體で一丁ばかり逃げ延びると、夕靄ゆふもやの中には親分の平次、ニヤリニヤリと笑つて迎へるのです。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
平次は大黒屋徳右衞門の氣焔にてられて、這々はふ/\の體でもう一度庭へ出て見ました。この家を取卷く秘密は、なか/\容易ならぬ深いものがあると見て取つたのです。
とか何んとか、平次と八五郎は、眼と眼でしめし合せて、這々はふ/\の體で逃げ出す外はなかつたのです。
平次の見幕の凄まじさに、八五郎は這々はふ/\の體で飛び出しました。長刀なぎなたになつた麻裏を懷ろにぢ込んで、四つん這ひになつて逃げ出すのが、まことに精一杯だつたのです。
八五郎はまことに這々はふ/\の體でした。近頃親分の平次に、こんなに怒鳴られたことはありません。
「あの時は首尾よく忍び込んだが、用人に見付けられて騷ぎ出され。御主人金之助樣に追はれて、熊五郎ほどの者も這々はふ/\の體で逃げ出しましたよ。金之助樣は一刀流の達人だ」
平次とガラツ八は、旅籠町の路地を、這々はふ/\の體で引揚げました。
平次は這々はふ/\の體で逃出して、手代の佐吉を小蔭に呼びました。
泰道は這々はふ/\の體で歸つてしまひました。
八五郎はまことに這々はふ/\の體でした。