みずかき)” の例文
空缶は探照灯の光を浴びて、しばらくゆらゆらゆれていたが、そのうちにふいと、波の下から青黒い手が、あのみずかきのある手が現われた。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先方の出す手が棘々満面とげとげだらけの手だろうが粘滑油膩ぬらぬらあぶらの手だろうがうろこの生えた手だろうがみずかきの有る手だろうが、何様どんな手だろうが構わぬ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かれらの徒歩かちわたりをし、みずかきでもありそうな、沼地をよちよち走りまわる足のかかとにマーキュリーのつばさでもはえないかぎりは。
くちばしでない嘴、翼でない翼、みずかきでない蹼、足でない足、笑いたくなるような悲しい泣き声、そういうもので家鴨あひるは成り立ってる。
みずかきあってよく水に泳ぎ、小魚をって食するものがあると、『本草啓蒙ほんぞうけいもう』その他の書には説いているが、私はまだそれを知らぬのみでなく
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
其跡は犬よりも少し大きく、かつみずかきがあるので足の指の間が切れていないという。或時老人が熊を捕る目的で一丈五尺ばかりの陥穽おとしあなを掘って置いた。
奥秩父 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
氏の『巫来マレー群島篇』に図せるごとく、その四足に非常に大きなみずかきあり、蹼はもと水をおよぐための器だが、この蛙はそれを拡げて、樹から飛降を便たすくという(第二図)。
紅白の美しい水鳥が、とまどいをして、ゴンドラの上にしばみずかきを休めているかと、見紛みまごばかりだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
体長はゆうに五十フィート以上あり、立上ったその頭は、三十フィートもある宇留陀木ウルタニアの頂からまだ上に出ていた。前肢には宮守やもりのようなみずかきがあり、後肢には偃月刀えんげつとうのような鋭い爪があった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
蒼黒くぬるぬる光る体、ひれのような物のついている尖った頭、みずかきのある手足、……爆発のいきおいで自由を失ったのであろう、海面へ浮上うきあがったまま苦しそうにもがいている。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
足にみずかきがあるという伝えも水、いては靇神に縁のあることを示している。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
みずかきのついた、蘇鉄の葉のような異様な前肢の中で、みじめなくらいに小さな教授の手と足が、蠅のようにあわただしくもがき廻っている。その足の下で、ナターシャが気を失って倒れていた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかと答えられず、鵠も鵝も足にみずかきあり概して言わば古ローマ古支那を通じて蛇の足は水鳥の足に似居ると信じたので、張衡その父が蟒蛇に呑まれたのをかくし転じて、大蛇に乗りて崖頂に登り
そして寝台から床の上へかけて、ぬれた大きな足跡が入乱いりみだれているのである。それは人間のものではなかった。長い指と指とのあいだに、みずかきのあるのがはっきりと分る。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)