跡絶とだ)” の例文
去年蘆屋の家で月見をした時の情景を昨日のことのように思い浮かべたこと、などを感傷的に書いて来たが、それから又しばらく音信が跡絶とだえた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
相手は口をさしはさまず、默つて聞いてゐるだけなのに、その差が重くのしかかつて、ややもすれば言葉が跡絶とだえた。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
かの女はあまり青年の手紙が跡絶とだえたので、もうあれが最後だったのかと思って、時々取り返しのつかぬ愛惜を感じ、その自分がまた卑怯ひきょう至極しごくに思われて
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
県農会などでも大いに奨励し、農家も儲かることであるから誰も彼も狸を飼っているのだが、儲け仕事は長く続かず、この一両年の時局柄で毛皮の売れ行きがとんと跡絶とだえた。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
明治維新の頃、奈良の五重塔が五十円で入札にゅうさつに附された頃、九谷焼も同じような悲運に会って、殆ど一時全滅していた。古い九谷焼は、この時において事実上跡絶とだえたわけである。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その日を境にして助ちゃんの足が一寸跡絶とだえた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
一度、それは跡絶とだえた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或は私の空耳そらみみであるかも知れないけれど、かくそれは三味線しゃみせんの音のようであった。ふっと跡絶とだえては又ふっと聞えて来る音色の工合が、どうも三味線に違いない。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自然収入の道が跡絶とだえるようになったけれども、なおかつ洋行の準備とか、洋裁店開業のためなどに貯蓄した金があるとのことで、生活には困らないように云っていたのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二三年前迄は降る程あった申込みが急に跡絶とだえるようになったことを思い、その原因が、昔の格式にとらわれて不相応に高い望みを懸け、来る話来る話を片っ端から断ってしまったことにもあるが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)