賜酒ししゅ)” の例文
だが、護国寺宝塔院のさいごの夜も無事に終了して、賜酒ししゅの酔いを頬に、諸人と共に彼もこの晩だけは、自分の宿所へさがってきた。
と、後醍醐のご記憶にも、彼の特有な人間臭が、忘れえぬものとしておありらしく、謁見えっけんの庭、夜の賜酒ししゅにも、道誉は加えられていた。
颯爽さっそうと馬上にゆられ、その従者たちも、きょうは賜酒ししゅの酔に、華やいでいるはずなのに、悄然しょうぜんと、その光秀は、徒歩かちで来る。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて賜酒ししゅが終ると、正行はすぐ退がった。しかしその後ろ姿もどこか弱々と見えて、みかどはひそかに、顕家あきいえには似ぬ者と、傷々いたいたしく思われた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくる日はまた、上皇の御幸みゆきで、式事すべて、前日のごとく、便殿べんでんで上皇から尊氏兄弟へ、親しく賜酒ししゅのことがあり、夜に入って、還御かんぎょになった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出丸廓でまるぐるわ落成の賜酒ししゅである。有村はまた、いい気持でつづみでも鳴らしているのであろう。夜になっても下城しなかった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二条為次と、中院ちゅういんノ定平とが、階を降りて、正成のまえに賜酒ししゅ三方さんぼうをすえ、また一ト振りの太刀を賜わった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者たちは、仮屋かりや仮屋で、いまがおそい夜食だった。賜酒ししゅはあったが、きのうから、飲むひまはなかったのだ。
最前までこの城中も、奥は夜宴に、お表は賜酒ししゅの無礼講で、たいそう平和であったのが、この老人ひとりの言葉から、たちまち、凄愴せいそうな気が城内にみなぎってしまった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇居はいま、二条の里内裏さとだいりにあるので、紫宸ししん清涼せいりょうきざはしではないが、御簾みすちかく彼を召されて、特に、賜酒ししゅを下され、そして音吐おんとまぎれなく、帝じきじきのおねぎらいであった。
として賜酒ししゅの儀を取りおこない、さらに、源家重代の白旗をとり出させて
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一族将兵たちの休養もだが、自身もまた去年いらいの血臭い生活をこの日に少しいこいたかった。……で、君からいただいた賜酒ししゅに染まって、頬にはほのかな色が出ていた。憩いの色といってよかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)