負傷ておい)” の例文
死者や負傷ておいの数も敵の十倍以上を出し、このままで斬り立てられると、ついには自身が危ういぞ——と切羽つまって来てから初めて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
負傷ておいと見ゆるぞ、介抱かいほう致せ! ……武右衛門! 武右衛門! 傷は浅い! しっかり致せ! しっかり致せ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつかも、負傷ておいの子猿を伴れた親猿が、この近所の木にんで、何日もお湯へはいっていたという里の人のはなしだった。だから、いつのころからともなく猿の湯と呼び慣らわしてきたのだとのこと。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
孝「それではお話をいたしまするが、殿様は負傷ておいでいます」
「そうであろう。——しかし、下手人は分った。いずれ、負傷ておいが本復したうえで聞いてみるがよい。相手は佐々木小次郎と見えた」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
負傷ておいの者はね起きた。そうして団体と一緒になった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして廊下のいちばん隅から灯りが洩れているのでさしのぞくと、そこに寝かしてある瀕死ひんし負傷ておいの枕元に、耕介夫婦が、顔を寄せていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人がためらっている間に、負傷ておいは首をのばして釣瓶にかぶりついた。そして水を一口吸うと、釣瓶のなかに顔を入れたまま、眼を落してしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔流の泡に叫びを上げる者、岩角に血を吐く者、たちまち幾人と知れない負傷ておいを出した。その凄まじい浪人の働きに、さしもの大衆もワッと後ろへ雪崩なだれ返った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾つもの死骸や負傷ておいはどこへ運び去られて行ったか、夜明けの前に手ぎわよく片づけられていたのである。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『源吾、そりゃよい考え、御子息なれば、同行をねがって、復讐の当夜の負傷ておいの手当をお頼みいたそう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすれば、世間を騒がすことも甚だしく、多くの負傷ておいなども出して、治世のおきてみだすばかりか、それが剣の道に益するところはいずれもない。百害あって一益なしです
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま、われ戦いに敗れて、この山嶮、この雪中に、わずかな負傷ておいのみを率いて、まったく進退ここにきわまる。一死は惜しまねど、英雄の業、なおこれに思い止るは無念至極。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家庭にいては、まだ頑是がんぜない幼な児、乳のみ児をかかえ、あした負傷ておいの兵を見まわり、夕べには兵糧の苦労に村中の女手やわらべの手まで狩りたてて指揮しておられたにちがいない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして山門をひらくと、よろい、あるいは乱髪、または負傷ておいの足をひきずるなど、惨たんたる敗戦の泥土をそのまま身に持った武士大勢が、ぞろぞろ霜を踏んで境内へ入って来た。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の小笛が鳴りひびくと、浪士たちは、踏み荒した邸内を見廻って、蝋燭ろうそくの火を消してあるいた。火鉢の残り火には水をかけ、敵の死骸負傷ておいを数え、味方の怪我人には手当を加えて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大月玄蕃は、途中で思わぬ不快を求めたばかりか多くの負傷ておいさえ出してしまったので、はれの場所に臨む前から、一同の気勢をいではと、無理に元気づけて、時遅れじと急いで来たのだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多くの負傷ておいや死者を出して退きわかれ、三浦郷へ帰って、衣笠城きぬがさじょうの孤塁を固めているが、そこへもまた、畠山重忠を始め、河越かわごえ太郎重頼、江戸太郎重長などの平家勢が、ふたたび大挙して
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この男には、何か画策があるとた。うかと、誘いに釣り込まれて、負傷ておいを出しては、御主君に対し吾々の申し開きが立たぬ。お犬のことも、重大事には相違ないが、人命はより貴重なものだ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)