貞操ていそう)” の例文
世間が、妻の貞操ていそうを疑っていると云う事は、閣下も御承知の筈でございます。それはその時すでに、私の耳へはいって居りました。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先生せんせい、するとこのおんなは、貞操ていそうをまもりたいばかりに、だまってをえらんだのですね。」と、小田おださんがきました。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何処の周旋屋へ行っても、同じような笑いをびるだけだった。彼女は、自分の持っているものが、貞操ていそう以外は、誰も相手にしてくれない事を知った。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この言をあじわうと夫婦間の親密とか貞操ていそうなるものは、自分ら以外の者のほとんど知るべからざるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ことわざの「ボンネットを一度水車小屋の磨臼ひきうすほうり込んだ以上」は、つまり一度貞操ていそうを売物にした以上は、今さら宿命しゅくめいとか身の行末ゆくすえとかそんな素人しろうと臭いなげきは無い。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一箇いっこのダイヤモンドは充分彼女の貞操ていそうを買い得るものと誤解していたのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それをよいことにして復一の変態的な苛め方はだんだんはげしくなった。子供にしてはませた、女の貞操ていそうを非難するようないいがかりをつけて真佐子にからまった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貴夫人などは貞操ていそう招牌かんばんにかけ、むろんポチだの報酬だのをおっとより受くべきはずはないが、しかし随分それを強請ねだろうと思い、衣服を買ってもらいたいがために
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかも世間は、一歩を進めて、私の妻の貞操ていそうをさえ疑いつつあるのでございます。——
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、事件への好奇や、ひとへの憎しみ、惜しみもえて、袈裟の死は、たまたま、この時代の男女が、ぼんやりとしか、もっていなかった“貞操ていそう”の観念に、はからずも大きな眼ざめを与えた。