藻脱もぬ)” の例文
昨夜の家が藻脱もぬけの空、がらんどう、入れておいた早桶はやおけぐるみ死人も女房も影を消しているのに、二度びっくり蒸返しを味わった。
初は面白半分に目をねむって之にむかっているうちに、いつしかたましい藻脱もぬけて其中へ紛れ込んだように、恍惚うっとりとして暫く夢現ゆめうつつの境を迷っていると
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なるほど、そこに夜具蒲団やぐふとんは敷かれてあり、枕もちゃんと置いてありましたけれど、主は藻脱もぬけのからであります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あをは、しかしわたしたましひ藻脱もぬけて、虚空こくうんで、さかさました亡骸なきがらのぞいたのかもれません。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うちに居る時には心が藻脱もぬけて雪江さんの身に添うてでも居るように、奥と玄関脇と離れていても、雪江さんが、今の座敷で何をしているかは大抵分る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)