薬種屋やくしゅや)” の例文
旧字:藥種屋
その隣りが遠山という薬種屋やくしゅや、その手前(南方へ)に二八そば(二八、十六文で普通のそば屋)ですが、名代の十一屋じゅういちやというのがある。
それでも内蔵造くらづくりうちが狭い町内に三四軒はあったろう。坂をあがると、右側に見える近江屋伝兵衛おうみやでんべえという薬種屋やくしゅやなどはその一つであった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
種物屋たねものやの娘は廂髪ひさしがみなどにってツンとすまして歩いて行く。薬種屋やくしゅや隠居いんきょは相変わらず禿はげ頭をふりたててせがれや小僧を叱っている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
薬種屋やくしゅやか、唐物屋とうぶつやで訊くのが一番だと思って、沈香か古渡りのギヤマンでも買うような顔をして、日本橋の問屋筋を一軒残らず歩きましたよ」
熊の解剖それから又或時あるときにはう事があった。道修町どしょうまち薬種屋やくしゅやに丹波か丹後から熊が来たと云う触込ふれこみ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
丁子ちょうじや胡椒や芥子からしは大概日本製の詰換です。舶来の壜へ詰め換えた品を食品屋から一壜二十銭で買う位なら薬種屋やくしゅやへ行って同じ分量を一袋で買うと六銭でくれます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「いまお願いして、倉庫で、私の下を働かせて、いただいてるのです。というのは、下町したまち薬種屋やくしゅやで働いていたのが、馘首くびになりましてナ、栗原のところへ、ころがりこんできたのです」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その鵞筆がぺんと云うのは如何どう云うものであるかと云うと、その時大阪の薬種屋やくしゅやか何かに、鶴かがんかは知らぬが、三寸ばかりにきった鳥の羽の軸を売る所が幾らもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
東京では蜜柑の皮でさえ薬種屋やくしゅやへ買いに行かねばならぬのにと思った。夜になると、しきりにつつの音がする。何だと聞いたら、猟師りょうしかもをとるんだと教えてくれた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)