にお)” の例文
通ったらぷーんとにおって来たではないか。この雪道、どうして素通りできる。……意地悪をするなよ。こらっ。こらッ
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のはだに手を触れて、心臓むねをしつかとおさへた折から、芬々ぷんぷんとしてにおつたのは、たちばな音信おとずれか、あらず、仏壇のこう名残なごりか、あらず、ともすれば風につれて、随所
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
光広が、こう訊ね出した時は、その光広も他の人々も、なにやらにおわしいものが、この温かい部屋いっぱいに立籠めているのを感じ出していたのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほど、こうの水はいつのまにか鉛色に見え、そよ風は雨気をささやきはじめて、藤の花の紫は、まさに死なんとする楊貴妃ようきひの袂のように、にわかむせぶようなにおいを散らしておののいている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)