薄明はくめい)” の例文
舟が岸に戻つたときは、もう薄明はくめいの時だつた。富之助が舟から色々のものを取り出してゐると、後ろでやさしい聲が聞えた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
起って、襖を開けると、奈世のメリンスの布団が夜明けの薄明はくめいのなかに、ひっそりと敷いてあり、枕の白いおおいが眼にしみたが、本人は居なかった。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
これが今日きょうのおしまいだろう、といながら斉田さいたは青じろい薄明はくめいながれはじめた県道に立ってがけ露出ろしゅつした石英斑岩せきえいはんがんから一かけの標本ひょうほんをとって新聞紙に包んだ。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
以前にうるさいと感じたあの線条的な背光も、今日は薄明はくめいのうちに揺曳ようえいする神秘の光のように感ぜられ、言い現わし難い微妙な調和をもって本尊を生かしていた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
まったく、長い、薄明はくめいがいよいよ暮つくして短い夏のってからの花火の壮観はすばらしかった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
薄明はくめいが長く続いて、午後八時頃に、太陽がようやく霧の曠原こうげん彼方かなたに落ちた。水平線に近い空が、一面のあかね色に染まり、一点の雲もない青磁色の天空に、そのあかね色が美しくとけこんでいた。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
うちつけにわが部屋の戸の鳴り出でて心さびしき薄明はくめいの船
かぎる黒い尖々とげとげ山稜さんりょうの向うにちて薄明はくめいが来たためにそんなにきしんでいたのだろうとおもいます。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
空は薄明はくめいとなる、パッと園内のカンツリー・ホテルに電灯がつく。白、白、白、給仕とテーブル。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
薄明はくめいどきのみぞれにぬれたのだから
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かかる日の薄明はくめい
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その薄明はくめいの二疋の犬
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)