蕎麦湯そばゆ)” の例文
旧字:蕎麥湯
その晩寒さと倦怠けんたいしのぐために蕎麦湯そばゆこしらえてもらった健三は、どろどろした鼠色のものをすすりながら、盆をひざの上に置いてそばに坐っている細君と話し合った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんなにもだえたり泣き悲しんでいた朱実のほうは、暖かい蕎麦湯そばゆをすすると、一汗かいて、深々と眠りに落ちてしまったが、丹左のほうは、明け方まで、まんじりともしなかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風呂吹を食へば蕎麦湯そばゆをすすめけり 陽山
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると、妻が奥から寒いでしょうと云って蕎麦湯そばゆを持って来てくれた。お政さんの容体ようだいを聞くと、ことによると盲腸炎になるかも知れないんだそうですよと云う。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その晩私はいつもより早くとこへ入りました。私が食事の時気分が悪いといったのを気にして、奥さんは十時頃蕎麦湯そばゆを持って来てくれました。しかし私のへやはもう真暗まっくらでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甚兵衛君の隣りにははつさんという二十四五の若いしゅが坐っているが、この初さんがまた雲照律師うんしょうりっし帰依きえして三七二十一日の間蕎麦湯そばゆだけで通したと云うような青い顔をしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熱い蕎麦湯そばゆすすりながら、あかるい洋灯ランプの下で、ぎ立ての切炭きりずみのぱちぱち鳴る音に耳を傾けていると、赤い火気かっきが、囲われた灰の中でほのかに揺れている。時々薄青いほのおが炭のまたから出る。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)