茅原かやはら)” の例文
基経は何時かは茅原かやはら猟夫さつお太刀たちを合わすようなことになりはしないかと、二人がねらい合っている呼吸いきづかいを感じずにいられなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
掘った土は、低地の茅原かやはらや沼地をどんどん埋立てて行った。一ヵ所の溜池ができると、附近の川の性能がまるで違って来た。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
キャラコさんは、ひろい茅原かやはらのなかに点綴てんてつするアメリカ村の赤瓦あかがわらを眺めながら、精進湖しょうじこまでつづく坦々たんたんたるドライヴ・ウェイをゆっくりと歩いていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鳴し稍丑滿頃とも思ふ頃あやしやはるふもとの方よりがさ/\わさ/\と小笹をさゝ茅原かやはら押分おしわけて來る氣態けはひなればお粂は屹度きつと氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
桑畑や茅原かやはらを吹きわたってくる風は、山気をふくんで秋かと思うほど冷やかだった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奈良県吉野郡よしのぐん掖上村わきかみむら茅原かやはら茅原寺ちげんじと云う真宗の寺院があった。其の寺院は一名吉祥草院きっしょうそういん。其処に役行者えんのぎょうじゃ自作の像があって、国宝に指定せられているが、其の寺院に名音みょうおんと云う老尼がいた。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
同じ位の高さの凸起を五つ六つ上下すると、山稜の向きが少し西に振れて、唐松のまばらに生えた、爪先上りの茅原かやはらが続く。何処かの原へでも出たようで、山の上を歩いているという感じが起らない。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
基経が辿たどりついた土手の上に、津の国の茅原かやはらは半身を川の方に乗り出したまま深く胸を射透いとおされて、呼吸いきを絶っていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
せまい縁に、てすりがついている。欄の下には、高瀬川の水がせせらいでいた。三条の小橋から南は、瑞泉院ずいせんいんのひろい境内と、暗い寺町と、そして茅原かやはらだった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猟の日、橘はうす青い単衣ひとえ山吹匂やまぶきにおいを着て父についていたが、津の茅原かやはらも、和泉の猟夫さつおも、弓、太刀をはいて、濃い晩春の生田川いくたがわのほとりに出て行った。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ありが物を運ぶように、山を切り崩した土は、柳島のあしの沼地を埋めて行った。原始人の踏んだままにひとしかった茅原かやはらや青い沼水が、またたくうちに新しい土で盛り上げられて行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)